新製品(925)925silver

24.07.27

大変長らくお待たせ致しました。銀無垢メガネの新作です。

案自体は割と前から持っておりました。寝かせておいたおかげで良いタイミングでの上梓となったと思います。ブリッジの感じとオーバルレンズのおかげで、フィンチメガネっぽい、今までのメガネの傾向であったクラシックの流れを程々に受け継ぎつつも、ちょっと流れを変えて90年代っぽい大きめなレンズで優しい雰囲気のメガネになりました。今っぽい横長メガネとも捉えられそうです。

装飾は控えめにブリッジ上部とテンプルエンドのみです。掛けると、分かりずらい箇所に意匠が込められています。パッと見て、普通のメガネに見せたかったんです。銀無垢で値段も高いですから、すぐに流されるような物にはしたくないですし、そうしてはいけませんから、その観点からもパッと見で普通を目指しました。

色々な生活があって、色々な職場環境があって、ファッションの要素をふんだんに込めながらも仕事にも使えるメガネを作ったつもりです。例えばオフィス等の内勤でもギリギリバレずに掛けられるのでは、というラインを狙いました。それがちゃんと実現出来ているか、出来上がったいまは心配です。

毎日がオフであるさすがの私も、保育園の送迎やお迎え、区役所に行ったり病気なら病院に連れて行ったり、世間と交わる機会がめちゃくちゃ増えて(それで店を休みまくっていますが)、自分一人なら良いけどメガネが目立って私の近傍にいる人が悪目立ちしないようにしなくてはなぁと思う機会が増えました。休みの日で公園等で遊ぶとなれば、遊びのエクストリーム具合に依っては銀無垢のメガネを掛けることを諦めて、TR90のメガネを掛ける機会も出来ました。

結局、一番自由にメガネが安全に気兼ねなく掛けられるタイミングは仕事中じゃないかなと。そして私を含めた多くの大人は、おそらく仕事の時間が人生で一番長いじゃないですか。そしたら仕事にこそ掛けていきたいメガネが例えばコレであって欲しいですし、所謂オンのときに躊躇なく掛けられるようなメガネにしたいなと思いました。今までの一山のシリーズとそのパッド付きが該当しますが、それよりはやや攻めの姿勢で、でもやり過ぎない、それを狙ってみました。

このメガネのこっそり充実感で、仕事を含む出来れば全ての時間がスペシャルになることを願っております。

 

 

 

出来上がった物が良く見えなくなってしまうかもしれないので、もうこんな感じで書くのをやめようかなとか考えましたが、結局いつも通り以下で残しておきます。実際の開発の動機付けや道のりは以下の通りです。

MIZで出るということで、この数年私はかけうどんを作ることを意識しています。ブルバキらしさの消去です。今回はある感動からスタートして下記で挙げた2方針を満足させつつ、一見普通な感じのメガネを作るということでして、何だかんだでたぬきうどん?くらいなメガネが出来ました、という感じです。しかも今まで携わってきたラインナップに無い、普通っぽいのに、まさにトゲがあるメガネです。

 

一部のお客さんにはお伝えしておりましたが、構想自体は2021年の8月、メガネ大学という鯖江の組合主催の工場見学イベントで、せっかく製作現場を見せて頂いたからとその場で仕入れをした、銀無垢のツーポのメガネからスタートしております。まずは、ここで遭遇したテンプルエンドへの感動が着想源です。

そのツーポのメガネのどこが気に入ったかと申しますと、なんと言ってもテンプルエンドなんですよね。幾何学的な意匠で、なおかつ立体的でめちゃくちゃカッコいいなぁと感動しました。MIZのメガネは、貴金属なのに工業的な仕組み・構造が組み込まれている面白さがありますが、貴金属のメガネにジュエリー的な意匠が乗っかると、改めてめっちゃ良いなぁと感動しました。今までの製作で避けていたことでもあります。そして、このテンプルエンドを活かしたメガネを作りたいとその場で直感し、サンプルが無くなっては困るということもあり、コロナイヤーでめっちゃキツかったんですけど仕入れをして、店で陳列しておりました。

2024年のいまは、ジェントルモンスター的なメガネがファッションのフロントに立つようになり、Y2Kな細くてスタイリッシュなツーポがカッコいいと言って頂ける機会も増えました。ただ2021年の段階では、クラウンパントやアーネルみたいな物のピークだったこともあり、広く多くの方に見てもらうには少しの改編が必要だと感じておりました。この段階では、テンプルエンドにあのブリッジを組み合わせることを思いついておりません。テンプルエンドへの感動と、それを活かしてなんかしたい(未定)くらいな感じでした。

ただ2021年のブルバキといえば、銀無垢のサーモントの開発の話が通ってはいるが、進展がない状況でした。その状況で、このテンプルからなんか開発をしたいという話をしたときに、銀無垢のサーモントの話が後ろに後ろに流れてしまわないか心配になりました。そのため、サーモントの開発が終わるまでは、このゼルダの伝説みたいな(トライフォーステンプルとします)を開発の軸としたメガネの製作の話は一切しませんでした。あのときはカッコいいよりも、まず、大げさに言ってしまえば人類はここまで出来るぞという到達点を示したかったんですよね。銀無垢のメガネの複雑さの極限と質量の極限を実際に目にしたかったんですよね。あと、サーモントが出来たときに書いたブログにあるように、アメカジの文脈云々も理由としてあります。

それで色々形になって落ち着いた2023年の10月、IOFTのときにトライフォーステンプルを活用したトゲトゲメガネの開発を打診しまして、今日に至っています。やりとりがあれこれあり、図面の完成が2023年の11月21日です。

今回の開発は、トライフォーステンプルの感動からスタートしました。それがここまでの内容です。では、そのトライフォーステンプルに何を合わせるか?つまりなぜこの結果としてのトゲトゲメガネという姿になったのかを書きます。トゲトゲブリッジの選択プロセスと、メガネ全体の雰囲気(方針)の決定プロセスを以下で書いていきます。あまり方針なんてものは立ててもしょうがないので、今回は2つにしました。

答えだけ書くと、トゲトゲブリッジを合わせることは、たまたま思いつきました。それで全体の方針はジャックデュラン的かつクロムハーツ的なメガネという相反するような2方針です。

結局2021年にトライフォーステンプルに感動したものの、それをどうしたら良いのか思い浮かんでいませんでした。ちょっと曖昧ですが、確か2022年の8月くらいまで何も思いついていなかったはずです。2022年というのは結構あれこれあった年で、銀無垢の商品でいえば2022年末のオール銀無垢のサーモントの完成の前に、セル眉のサーモントが完成しております。それが2022年の7月です。

それで、セル眉の銀無垢のサーモントを買って頂いたお客さんでしたか、その8月にカットリムの銀無垢を買って頂いたお客さんでしたか、ブルバキの次どうします?みたいなことを尋ねられまして、ヤバイなんも考えていないなぁとか焦っていたところ、なぜかとっさに閃きました。カミナリが落ちて、脳汁が出ました。コレだ!と。

作業場横のショーケースに飾ってあるゴルチエのフレームなんですけど、何度もなんども目にしていますし、レンズも自分で変えて何度も触っています。テンプルの飾りに気を取られてその時まで全く気にしていなかったはずなのに、次なに作るか?みたいな問いかけで「トライフォーステンプルを軸に何かしら作りたいですね」みたいなことを話しながらふと目にした瞬間に、このブリッジめっちゃカッコ良いし、トライフォーステンプルと相性バッチリじゃん、そもそもこれが銀無垢ならそれだけで最高じゃんと、本当にカミナリが落ちたんです。確かお客さんともその場で、それは良さそうと盛り上がった記憶があります。

そうしてブリッジもテンプルエンドもトゲトゲなメガネを作ろうという何となくの概略は浮かんできました。ただ、それだけでは弱いです。もう少しメガネ全体に関する方向付けがなければいけません。その青天の霹靂から開発のスタートまでさらに1年くらいありますが、その間はひたすら頭の中で転がします。転がすというのは、常に考えているわけでは無いんですけど、暇があったらたまに取り出してあーでも無いこーでも無いと、頭の中で会議させておくみたいな感じです。

トゲトゲブリッジを観察して、ざっくり二つの印象を持ちました。それがそのまま2つの方針に繋がっていきます。一つは見た目通りぺったんこだなと。これがジャックデュラン的だなと。そしてもう一つは切断したスタッズの指輪みたいだなと。これがクロムハーツ的だなと。

一つの目のぺったんこな印象を頭で転がしていたおかげで決まった方針として、全体の雰囲気をジャックデュラン的にしようというのがあります。

2023年の4月3日に、坂本龍一さんが亡くなられています。そのときに、水島眼鏡さんのインスタに追悼ポストがありました。それをみて、晩年の坂本さんはジャックデュランのメガネがトレードマークになっている印象がありましたが、MIZのメガネを掛けて欲しかったなぁと思ったんですよね。工場の人間では無い私が勝手になんですけど。そのジャックデュランというのは、フロントがフラットで、テンプルエンドの裏が立体的で畳の姿が綺麗で、装飾が最小限でとにかくカッコいい訳なんですけど。普通じゃ無いのに普通の極致みたいな。だったらそれのメタル版を作ろうじゃ無いかと方針が定まりました。《方針1》

この方針をもとに、レンズシェイプとレンズサイズ、また智の選択とテンプルの装飾の決定が行われております。レンズはサンプルに近いオーバルが、あの雰囲気が出そうということで決めました。オーバルの48ミリです。智はいつもの通りスパルタ智呼ばれるものですが、形状はオーソドックスな丸いものです。一山の銀無垢のフレームたちに組まれている、凹の曲線が美しいちょっと厳つい雰囲気の一個智ではありません。

優しい雰囲気に、そして《方針1》からテンプルは柄なしにしました。智の選択においては、智の部分にスタッズを配置することも検討しましたが、それは《方針1》に反するのと智を飾るのはブランドの仕事であろうと思い至りまして、プレーンにしました。先ほども書きましたがMIZ名義で出す以上、私の役目はかけうどんを作ることです。各方針よりも上層に、かけうどん的メガネを作るという大方針があります。そのため目立つ箇所には何も配置しないことに決定しております。とか言いつつたぬきうどんくらいになってしまいましたが、かき揚げはのせていないつもりです。先ほども書いたとおり、《方針1》と普通を意識してメガネを作るというのは重なる部分があります。

 

もう一つの指輪の切断という印象のおかげで決まった方針として、銀無垢のサーモントに引き続きクロムハーツがこういう銀無垢のメガネ作っておいてくれたら良いのに第二弾を実行しようというのがあります。

2023年の8月末にクロムハーツのフレームで、オールチタンのオーバルのメガネのお持ち込みがありました。それもちなみにオーバルの49ミリで同じくらいのFPDでした。それがすっごいカッコ良かったんです。そして私はスタッズの指輪の切断が、それこそクロムハーツの指輪の切断に見えていたので、じゃあ銀無垢で指輪の切断モチーフのブリッジでオーバルのメガネを作ろうという方針が決まりました。《方針2》

《方針1》と《方針2》は、ちょっと矛盾する部分があるようにも見受けられます。そこをまとめ上げて解決することが、今回のトゲトゲメガネのゴールです。絶対矛盾の自己同一のためには、《方針2》の適用が鍵となりそうです。

《方針2》をどのように適用して意思決定をしたかと申しますと、ブリッジにボリュームを足すということに変換して適用させました。このときに、解決策としてそれっぽい具体的なモチーフをのせてしまうと、ただのニセモノになってしまいます。そして特別な模様等を乗せる行為は《方針1》に反してきます。なので、何か特別な柄をブリッジに乗せるとかでは無い《方針2》の実現が求められます。

そこでクロムハーツの良さといえばということで、あれこれありますけど、一つはとんでもない質量という点が挙げられると思うんです。質量による迫力ですね。ただメガネとしての質量のマックスは前回のオール銀無垢のサーモントで実現しておりますから、ある程度の質量をプラスで持たせるということで、《方針2》を実現します。迫力が出過ぎるとそれで付加される印象だけで《方針1》を脅かしかねません。

ブリッジを単純に太くすべきなのかどうなのか…と考えた末、結局のところ自分では解決策が思い浮かびませんでした。ブリッジを太くすると、リムとの関係を気にしなくてはいけなくなります。リムが太くなると、智との関係が…と連鎖します。下手すると全部が太くボテッとして野暮ったくなり、カッコ良く無くなってしまうことが予想されます。

そこまで考え尽くして自分では思いつかないのであれば、あとは頼ろう(そもそもいつも頼っている)と、2023年10月のはじめての開発の打診の際に「ブリッジに迫力をもたせたい」ということだけをお伝えし、あとは寝て待ちました。その返事がまさに果報でして、上がってきた図面がスーパーウルトラハイパーマーベラスな解決策で、それも感動した覚えが残っています。

端の処理が変わり、リムに覆い被さっています。それだけでゴツさが加わって迫力があります。使用による変化でリムとの段差に黒ずみが加わると、より一層立体感が加わって良さそうです。この解決策のすごいところは、ブリッジの太さ、幅が変わっていないところです。

逆に言えば、サンプリング元の金色の方の凄さは、終端の処理を上手い具合にすることで、細く華奢に見せつつ、最後までスタッズが続いているかのように見せているところです。金色で細くて、ちょっとエレガント路線だけど、上から見るとスタッズで実はちょっぴりスパイスが効いているのが元ネタです。

端の処理を変えたことで、スタッズとリムの間が空いてしまったのでスタッズの数を左右1個ずつ増やしています。リムと飾りが緊密である方が吸い込まれるような感じが強く演出されて、見ていてドキドキするかなと思いまして。それもこれも、あの覆いかぶせる処理を思いついて頂いたおかげです。元のヴィンテージの印象のまま銀無垢になった雰囲気もありますし、ボリュームが増したことでエレガントな感じが薄れて男臭くなった雰囲気もあります。元々上手く処理してあったものを、上手く処理していない風にゴツく荒っぽく、上手ずに解決・処理して頂きました。それがカッコいいのかなと感じています。スタッズのトゲの一つ一つが割と鋭いのもカッコいいポイントだと感じます。

 

おおよそこんな感じで開発が進み図面と言いますかディテールは詰めていきました。2023年の11月に図面のオッケーを出したものの、結局智とテンプルの決定が良かったのかどうか、時間があるとまた頭で転がしてしまうんですよね。ウジウジと悩んじゃうんです。そのときに自分の生活を振り返りつつ、これまでの銀無垢の開発で出来たことと、逆にまだ出来ていないことを考えて、これこそが程よい意匠を持つ普通のメガネだなと思い至り、これくらいのトゲトゲの散りばめ具合で決着しております。

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