カテゴリー:無垢のメガネ(925silver,SPM)

本当はもうちょい何か書こうとしていたんですけど、一晩寝たら忘れました
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.03.22

気がつけば、金の価格が1グラム9,000円を超えていまして、ついに1グラム10,000円を突破しちゃうんでしょうか。凄い時代です。

ファッションの良いところでもあり、権威なき権威ということで、権威に靡かないでちょっとスカしているんじゃないの?というところでもあるんですけど、ゴールドを使えば使うほど物がカッコよくなる訳では無いので、より一層金を使ったメガネの製作から遠ざかるだろうなあという心持ちです。やや残念。何を作りたいか、それが念頭にあって、金の素材の持つイメージとか特性とか見た目がそれに合致する場合は、この値段でも避けずに挑まないといけない素材ではありますけど。確か2年前?に一度金無垢でブリッジパーツを金無垢で作成しました。あの時ですら、めっちゃ高いなあと思い、製作後に金価格が暴落したらどうしようとビクビクしていましたけど、今となってはあの時でも作り時でしたね。

銀無垢のサーモントです。使用8ヶ月ほど。

ブルバキを始めたときから、ヴィンテージのメガネと銀無垢のメガネという二本立てでした。意味の割り振りがありまして、銀無垢には普遍性(普遍だから不変なのか、不変だから普遍なのか。鶏と卵的な問題がここにもあります)という担当を与えていました。それだけだと先程紹介の金も含めた他の貴金属も、不変な輝きを帯びているという性質から、その目的に適う素材ということになるんですけどね。いろいろあって、創業時から銀無垢を推す店になっています。

銀の経年変化となりますと、深みとか重厚感とか渋みとか、色々な表現があると思います。まずそれは煌びやかな雰囲気だけでは無いよというメッセージが、そこから読み取れると考えています。それは他の貴金属には無い良さですよね。

それで、その燻しの変化が銀無垢のメガネに起こったときに、全体としてどんな印象をもたらすのか?しかもそれが、かつて存在していたメガネからデザインを興したフレームだった場合にどうか?そこが肝です。例としては上の写真です。使用した痕跡が堆積する事で、ヴィンテージメガネよりも年数は浅いのにも関わらず、それに匹敵する重み(雰囲気の)がプンプンしていると思っています。

ブルバキは初めから、完全再現を諦めています。初めから諦めていることは、怠慢ではなくヴィンテージへの敬意からです。例えばヴィンテージの物自体がもつ雰囲気は、細部の検証と追及から逃れます。部分最適の総合は必ずしも全体の最適を形成しません。そうは言ってもいつでも部分から着手せざるを得ない人間の小ささに挟まれて、毎度毎度のことですけど苦しかったりします。

そこで、無垢とか手彫りとかの素材に良さを付加したり、眼鏡士としてフィッティング上の問題を取り除くことで、メガネそもそもの良さを足してみたり、覚えたての言葉を使えば新品とヴィンテージの脱構築をそこで図っています。でもまずは、細部の追求が全体の雰囲気の再現に対して思ったよりも近くない行為であるということから、そしてヴィンテージへの敬意から、銀無垢で何か作るときは始めから完全再現は避けています。

 

引き延ばす
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.03.03

IT TAKES TIME.

今年の2月に、ナイキとトム・サックスのコラボスニーカーが出ていました。そのキャッチコピーでした。ズバッと通る文言で、心に響きました。スニーカーは外れましたけど。ちなみに日本のウィメンズサイズの範囲なら、いまもサクッと買えるので羨ましいです。

これの日本語訳も良くて、

“「本物」になるには時間がかかる。”

でした。本物にカギ括弧がついているのもなんだか良いですよね。

本文からも引用しますと、

“…箱から出した新品の状態とボロボロになった状態の間にある素晴らしい時間を引き延ばすためのデザインになっている。”

ということが書いてありまして、伝えるのが上手なひとって本当にすごいなと思いますし、自分の伝え方の下手さを痛感します。

“素晴らしい時間を引き延ばす”こと、メガネにおいてそれを引き受けるために今までブルバキをやってきたんだなと、銀やサンプラチナの無垢もヴィンテージも、それだわーって、そんな風に手前味噌的に思ったんですよね。

 

まだ一年経っていないです。この前も載せましたけど。八ヶ月くらい経過してこんな感じです。同じ銀無垢でも、特にサーモントの変化はカッコいい気がします。

子どもによくトミカで殴られる為か、写真だと分かりにくいんですけど、左の智がガリガリに傷ついてきました。これも、どちらが自分にとって素晴らしい時間になるかで分かれますよね。綺麗に磨き直すのも良いですし、このままでもっともっと傷だらけにするのも良いですね。私はサーモントに関しては傷だらけにする予定で、古い軍モノの Emeco のアルミの椅子みたいに、あんな雰囲気を帯びたらカッコいいなあと考えています。

重い腰を上げたら
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.02.21

ブログにしてもインスタにしても、変わらずに置いておきたいものが作りにくいなあと思っていました。特に銀無垢のフレームたちと相性が悪くて、廃番の概念がない、ずっと継続している商品が都度の更新で流れてしまうんですよね。物自体はかなり不変性があるのに、例えばインスタ上では店主が食べたスイーツの投稿とか和菓子の投稿でいとも簡単にどんどん後ろに消えていっちゃいます。

ということで、いま店に有る銀無垢のフレームのみ載せたアカウントを作りました。@bourbaki1139_ag925です。

基本は廃番という概念が銀無垢の商品には無いですし、ブログやインスタでしばらく紹介が無いと“終わったのかな?”みたいになっちゃうので。図鑑のような一覧を作りました。

昨年末に銀無垢のサーモントが2種出来ました。それでメタルフレームの基本型みたいなところを、銀無垢でそこそこカバー出来たんじゃ無いかなと考えています。細かいバージョン違いでアレが、、、とか、今度はこの意匠で、、、とか、あれこれありますけど、とりあえず今年は新型というのは考えていません。継続のみです。

となりますと、ちょうどいい機会ですしここらでひとつ整理しておこうかなと考えて、あんな感じです。

綺麗にカッコ良く撮るのは本当に難しくて、撮ればとるほど自分が見えてくると言いますか、なんだか落ち込んできまして本当はサンプラチナ版もアカウントを作ろうと思っていたんですけど、重い腰を上げたら柔な心が折れたので一旦休憩です。

各1のみ
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.02.03

金無垢とサンプラチナのコンビフレームですが、各1本限定でおつとめ品にしました。

K18イエローゴールド

K18ローズゴールド

そんなこんなで、さっきの記事ではこれのデザインの基となった1930年代のフレームのことを改めて調べていたんですよね。時代に重きを置いたり、みなさまそれぞれ大事に思う箇所は違うと思いますが、とりあえずブルバキはヴィンテージの眼鏡屋ですけど何よりも質量重視です。

K18ローズゴールド使用部分。ブリッジのネジとワッシャーとナット、鼻パッドと鼻パッドどめのネジを含みます。

製作が2021年の夏で、そもそものきっかけは銀無垢のサーモント(眉がセル、眉が銀無垢ともに)の進捗が無く、それなら他に何か進めたいなあということで、銀無垢で作れなかったブリッジを一度でいいから他の貴金属で拝んでみたいという試みでした。

そこから、もう少しゆっくりゆったり開発が進むのかなと考えていましたら、予期せぬペースであれよあれよと新作として銀無垢のサーモントが2022年中に2型出来上がりまして、ちょっと色々アレなんで、珍しくアレします。店頭でのアレは初めてです。

¥330,000→¥230,000 (税込)

実験
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.01.29

昨日インスタに載せた、湯の素による温泉燻しです。これ面白いかも。

以前に使った銀黒とは別に、硫黄系の燻液も売っていますけど、温泉燻しの方が簡単にムラが出て、茶色や青色のグラデーションを付加できる気がします。確かにこのムラが、真っ黒にならずに茶色や青色で止まる感じが自然です。あれこれ燻して飽きたら、風呂に入れて本来の楽しみ方に還れば良いですしね。

サーモントもやり直してみました。

 

湯温をあげて、まさにお風呂くらいにしつつ、薬品の量を少なめにしたらこんな感じ。茶色〜金色みたいな、不思議な色合いになりました。私自身は元々エイジングガチ勢(真っ新から薬品を使わずに燻す派)でしたけど、この二つの感じはカッコいいと思いました。通常の使用では、まずこういった変化にはならないので、これはこれで銀無垢ならではの表現として良い感じですね。

いずれも定着の仕方は普通で、指で10回くらいゴシゴシすると落ち始めます。

デカめ銀無垢パッドは、金型は出来ているみたいなので、おそらくもうすぐです。

隙間とは
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.01.16

肝はここの処理でした。テンプルと眉毛パーツの処理です。上の画像をみて、結果から申しますとほぼヴィンテージと同じ処理になりました。

ヴィンテージの蝶番部分を貼っておきます。

日本の美意識みたいなところで判断すると、この未処理の段差と言いますか眉とテンプルの切断は許しがたい部分になると思います。設計の段階でフロントからテンプルに向けて滑らかに繋がるように改編して、そのつなぎ目を合わせて精緻にきっちり仕上げるはずです。

今までは、そういう日本的な美しさに注目をし、一個智の美しさや面のあった美しさを味わうのも良いですなぁみたいな感じで、銀無垢のフレームやサンプラチナのメガネを紹介していたと思います。今回は一歩踏み込んでいます。もし先のように改編した場合に、得られる良さもあるんでしょうけれど、失われる良さもありますよねと。何なら失われる良さにフォーカスを当てて開発しましょうというのが個人的な狙いです。スローガンとしてはヴィンテージの再現、銀無垢でのアップデートなんですけどね。

今回の銀無垢のサーモントを載せます。

眉パーツとテンプルが別個のもので独立していたとして、その接点をどうするか?という問題があります。あれこれフレームを調べて銀無垢に適した構造を探りましたが、結果的にはヴィンテージと同じように眉とテンプルを用意しつつ、違うのは眉とテンプルを一切干渉させない構造にしたところです。たしか、0.3〜0.5ミリの範囲で、眉とテンプルの隙間をあける指示になっていたと記憶しています。テンプルは、硬いパラジウム合金に接地するようになっています。

いくら狙って微小な隙間を作るとはいえ、隙間なんです。これは出来上がった物を見るまで本当に不安で仕方がない部分でした。ヴィンテージのメガネではセルが縮んだりとか、そもそもの精度のこともあって隙間は乱発していますけどね。現代において銀無垢で作ればそれなりの値段になりますから、その値段で許されることか?みたいな自問自答は出来上がってくるまでずっとありました。

色々な角度から撮りましたけど、どうでしょう?ほとんど分からないと思います。一つはメーカーさんの隙間が微小であること、もう一つは隠さずにわかりにくくする工夫をしております。

今日に至るまで、隙間の事実を言わずに結構な方に見ていただいたんですけど、誰も気づいていないっぽいので成功したと思います。

隙間を目立ちにくくする工夫を考える上で、まず

そもそも隙間とは?

隙間と、どういうときに認識するのか?

つまり隙間と認識しやすい条件とは何か?

みたいなことを考えました。辞書で調べても、物と物の間くらいにしか記載がなく、隙間にしっかりと向き合った形跡がありません。そうなると自分で考えなくてはいけません。

隙間といえばなんですけど、私は実家の居間の引き戸を思い出しました。小学生のときは閉めが甘くて、隙間があいていると親によく怒られたんですよね。

そこで引き戸を観察して分かったことは、視線と直交する同一平面上に扉も壁もあると、隙間と認識しやすいということでした。例えば壁に枠みたいな囲いがあって、扉が枠よりも1ミリでも2ミリでも内側にあると、つまり扉と枠が同一平面上にないと、途端に微小な隙間を認識しにくくなります。ぜひ色々な引き戸を観察してみてください。

そこでさっきの3枚の写真を見て頂くと分かるのですが、眉とテンプルはどこから見ても段差があるようにしています。段差があって、眉とテンプルが別体ということを強調し、ヴィンテージっぽい感じの演出に一役買っています。それに加えて、もとは隙間をわかりにくくさせる意図を込めて、段差を強調しました。

ちょっと前に、テンプルのヤゲンのラインは何となく好みで入れたとか書いたと思います。まあそうなんですけど、一応隙間を分かりにくくするための意図もあります。もう一度、同一平面状に平らな面と面が並ぶと隙間と認識しやすいです。平らな机の上に、平らな下敷きと平らな下敷きが並んでいるのを想像すると、何となくそんな気がしませんか?そこで、一つを凸に、両方でも良いんですけど平面から飛び出ているような要素があると、隙間の認識が難しくなると思います。それでテンプル側をヤゲンのように凸にして、単純な平面にしなかったというのも一理です。

のらりくらり書きましたけど。眉とテンプルの処理はヴィンテージとほぼ同等に再現出来ました。銀無垢で。眉毛とテンプルは、銀の塊と塊なので、それが衝突している様は(実際は微小な隙間)、非常にダイナミックで美しいです。メーカーさんとのやり取りでも、ひたすら迫力とか粗野な感じとかそういうのは伝えていたのですが、まさにこのヴィンテージのような一見すると単純な(実は単純じゃない)構造でしか生まれない良さが再現出来たと思います。リ・ウファンの関係項だったか、そういう作品を見たことがあるのですが、大きいものと大きいものの衝突ですよね、まずは。そういうメガネが遂に出来ました。

 

ビバノンノン
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.01.11

銀無垢のサーモントの完成連絡をうけて鯖江に伺った際に、銀の硫化ってほどほどに施すにはどうしたらいいか聞いてみました。燻用で出ている薬剤だと、黒が強いのでコントラスト強めでパキッとした感じが好きな方は結構なんでしょうけど。もう少し淡い感じの、自然な経年変化に近い風に黒ずみを起こしたいなと考えていました。

メーカーの社長さんのオススメは、やっぱり温泉だそうです。即答でした。つまり温泉の入浴剤で良いんだよと仰ったときに、なるほどなーと目から鱗が落ちました。それで買ったのが『湯の素』です。

硫黄が入っている入浴剤ならということで、パッケージで湯の素にしました。カッコいい。

あとは、インスタに載せた通りです。あっちの方が画像が綺麗なので。真っ黒になるんですけど、黒よりグレーという感じです。ムラがあって、多層的です。炎で炙って青っぽくなったような箇所もでます。確かに理想的な燻のマックス状態になります。

表面は、梨子地までいかない程度にマットになります。スマホのシリコンカバーみたいな感じです。

ある程度、銀は光沢も良さですからクロスで磨いています。一発目は銀用の柔らかいもので、二発目は銀も良いけどちょっとハードやで気をつけてや、みたいなクロスで磨いております。一発目の磨きでは磨いた部分にほんのりザラつきを感じたので、二発目で面を整えた感じですね。

一発目で止めても良いですし、この辺はお好みで。

リベット付近やブリッジ付近の変化は予想通り、かなりカッコ良くなりました。予想を越えたのはテンプルで、凸の薬研がスパッと光って、面は黒ずみが落ち切らず、落ち着いたトーンになります。終端まで伸びる線が強調されて美しいです。上がりたてのピカピカも荘厳でしたけどね。

今はまだ大きめな銀無垢の鼻パッド待ちですね。微妙に自分に合わせてちょくちょく掛けてみましたが、たまたま僕ならずり落ちないけど、不快です。この感覚は、ティアドロップくらいのフレームにガラスレンズを入れた感覚に近いです。

確かに、s-6.00の60径で30グラム前後で、銀無垢の眉毛の重さが25グラムくらいだったはずです。割と近い重さでした。なので僕の銀無垢のサーモントを掛けたときの実感と、自分の度数でガラスレンズを枠入れしたティアドロップ系を掛けた実感が繋がります。あくまで主観であって、全然科学的では無いんですけどね。科学的では無いんですけど、自分すらダメだったらまず出せないよなというのはいつも考えています。

モードオプティークのno.34から拝借。今のところmaxの大きさでもVSDは出来ないと言われつつ、とりあえずプラスチックパッドのVSDを取り付けると全然イケる感覚になるので、やはりガラスレンズが主流で、なおかつレンズサイズが54とか56の時代、70年代くらいのパッドの大きさに還ることを理想にしつつ、今はとりあえず工作機械のマックスパワーでどこまで大きい無垢のパッドが出てくるのか楽しみに待っている状況です。

仕入れしてしまいました
無垢のメガネ(925silver,SPM)

23.01.08

年明けのソフト側の諸問題を解決出来ず、ブログ本文中の画像がまた不鮮明に戻ってしまいました。色々試みて、直せないのでしょうがないですね。

週明けの、今月分の眼科さん出張が無しになったこともありまして、それだけゆとりがあるならと銀無垢のサーモントを仕入れしました。

あと、何だかんだ自分にとっても念願の銀無垢のサーモントの完成ということで、早く手元で、もっとじっくりと観察したいという欲求が高まってしまい、なんならメーカーさんのインスタにあけおめ投稿でサーモントの全貌を載せてるし!ということで、大きい銀無垢の鼻パッドの完成はまだ先ですが、メインのフレームは仕入れております。

イベント最中に書いてますけど、予想以上に僕のブースだけ暇すぎるので、この前の続きと言いますか、銀無垢のサーモントの製作に関してひとつだけ僕が決定しないとどうにも進まない部分があったと申しましたけど、その辺のことも時間があれば書いてみようと思います。推敲が長いので、更新まで出来なかったらすみません。ヴァージル・アブローの3%プロセスといったり、トムサックスの“クリエイティビティ イズ エネミー”だったり、色々な表現に置き換わって度々現れますけど、エビデンス主義という表現に化けて出てくることもあるかもです。最後の最後に、危ない橋は渡らない、デザインはしないと言いながら、エビデンスの無いところに突き当たってしまいました。エビデンス主義と責任回避みたいな話もあるので、そんなことを気にかけるとエビデンスのないことの決定というのは大変気が重かったです。その辺がスパスパッと積み重ねられるのが、デザイナーということなんだなと痛感しました。

全部書いておきました
無垢のメガネ(925silver,SPM)

22.12.24

狙い

銀無垢でサーモントを作りたいと思ったきっかけは簡単です。1950年代のアメリカに、既にそれに近い形の物が存在しています。オールアルミの、物によってはそれに金張りを施したサーモントです。

開発にはこの2本を用いました。アルミが大量に製錬されるようになったのが世界大戦後の1950年代らしく、軽くて強度もあって錆びにくくて、最高の素材っぽい宣伝が当時もされています。それこそロイヤルだったかデラックスだったか、そういう高価なサーモントとして位置付けられていたことが調べると分かります。そこから想像を膨らませるのは容易くて、これが貴金属だったら…となるわけです。結局当時物のアルミのメッキなり張りのフレームを見ましても、消耗品として製造された形跡といいますかパーツの選定が行われていまして、遺すとか受け継ぐみたいな意味は込められていません。このサーモントのデザインがメガネのスタイルの一つのスタンダードになって、70年後の今もあるとは想像し難いですからね。そこで、銀無垢で日本の技術をみっちり詰め込んで、作りの面から素材の面から不変性を帯びさせようというのが狙いです。

それは自分たちの仕事では無いと言われればそれまでですし、各ブランドが「メガネ」というカテゴリーをどれくらい重きを置いて見てくれているのかということに依りますから、以下は勝手な怒りということなんですけど、店を始める前のメガネ業界のサラリーマンのときから、クロムハーツやティファニーがそれを作ってくれていないことにとても憤りを感じていました。両者ともアメリカで、銀無垢がウリで、目につくありとあらゆるものを銀製品で作っているはずなのに、なんで全て銀無垢のメガネは無いんだと。しかも、古き良きアメリカを代表するサーモント、レイバンのクラブマスターも1986年から販売していて不動のスタイルであるサーモントを。過去を漁れば、銀ではなくてもオール金属で作っていた形跡があるのに…。チタンやセルのフレームに飾りやロゴの印刷をしてあるメガネは沢山あるので、おそらく両者ともメガネはロンTと同じ扱いなんでしょうけどね。とりあえず、一庶民がパッと思いつくような物が世界に無くて、お金で買えなくて、それを憧れに生きていけなくて、これは由々しき事態だと勝手に思い込んだのがスタートです。

ベースとなるフレームの選定

925シルバーのサーモント
50年代のアルミのサーモント

アルミのサーモントも、各社がそれぞれ試行錯誤を繰り返した形跡があります。その中で、シューロンの眉毛に注目しました。眉毛の真ん中で凹んでいます。リムに沿わせています。これを採用しました。アルミのサーモントが何を意図してプレスしたのか分かりかねますが、銀無垢で作るとなれば常に重量を気にしないといけません。ボリュームを十分感じるのに、ちょっとだけ軽量化出来そうです。

ちなみに、ヴィンテージメガネ界でサーモントといえば、AOのサーモントを至高とする見方もあります。どうしようかなと迷ったんですけど、一旦ヴィンテージの価値観から離れて、冷静に見れば全世界に未だに行き渡っているのはレイバンのクラブマスターだよなぁということで、クラブマスターも参照したのかなっていうくらい似ている、上の二つから開発を進めています。

サイズの決定

今回はボクシング表記で47□21です。資本が∞であればアレコレ出来ますが、現実問題としてやはり一つに絞らないといけません。日本人の男の平均の瞳孔間距離(PD)が65ミリというのを参照しております。今っぽい掛け方でpd=fpdとなりますと、44□22も候補には上がりますが、出来上がったものは銀の塊で相当な迫力であろうという予測から、レンズはちょっと大きめでゆったりと、ちょっとpdが広めでもジャストでカッコいいというところを狙いました。開発のサンプルでは46□22の表記でして、正確に測ると47□21ですよと工場から通達がありまして、そうしましたらその通りに作りましょうということになりました。レイバンのクラブマスターは51□21と49□21です。ひょっとしてお前もその分析を…という発見がありました。ヴィンテージメガネの世界では大きめ、現代のメガネからすると小さめ、クラブマスターの一個下というサイズになっています。

80年代の日本製ほぼクラブマスターと並べました。それは50□20です。レンズを大きくすると眉毛も大きくなって重たくなりますし、レンズもいくらプラスチックとはいえ重量が出ます。ここは色々な余地があるところでしょうし、流行り等々でいかようにもレンズ横幅とブリッジ幅は変わると思います。

テンプルの決定

テンプルはこんな感じです。現行のレイバンのクラブマスターは、テンプルは真っ直ぐな棒です。50年代のサーモントも、セル眉のタイプであれば真っ直ぐな棒の物も他にあるのですけど、アルミのサーモントは、大抵が耳に向かって末広がりです。この末広がりの処理は、個人的にはカッコいいなと思うんですけど、現代的にはテンプルが派手だと避けられる傾向にあるよなあとか、色々と考えの余地がありました。銀無垢でサーモントを作るにあたり、どちらを採用しようかなと。

アルミで末広がりにするのは、どのような意図があったのか、いまとなっては分かりません。ある程度面積を用意して、ゴージャスに見せる目的だったのかそうでは無いのか。実際に50年代のアルミのサーモントにおいて、テンプル等々に彫金が施されている物も存在しています。なんとなく、幅を持たせてゴージャスな演出にしていたような気はします。

今回、画像を見ると分かる通り、末広がりのテンプルを採用しました。最終的には、棒にするのも末広がりにするのも、個人の好みの問題に帰着すると思います。そこで銀無垢でサーモントを作ることに対して、どちらが優位かを鑑みて末広がりを採用することにしました。

・鉛直方向に幅のあるテンプルの方が、その方向の力に対して強度が確保できる

・銀無垢の眉パーツが重いため、後ろがよりヘビーになる末広がりなテンプルの方が重量バランスが良さそう

※ただし、重量バランスと総重量の葛藤は常にありまして、総重量の観点からすると、真っ直ぐなテンプルの方が軽そうです。

・薬研のラインを末広がりのテンプルには入れられるので、横方向の強度も出せる

横の薬研のラインも、ヴィンテージから採用しました。

上が薬研のライン有り、下は無し

銀無垢はカシメを出来ません。さすがに横が物足りんのかなと思いまして、ヴィンテージよりもっと明瞭な山にして、ラインを先端まで入れています。思考を変えて、カシメがないのを活かして、眉毛パーツまで視線を誘導するような鋭いラインを入れました。

真っさらな平面で、手彫りの余地を残しておいた方が良かったかもしれませんし、ここもまだまだ考えられそうです。真っさらな平面で物足りないことはなくて、そこに少し私の感覚が入り込んでしまったなと、今になって反省です。とりあえず末広がりで、テンプルエンドはいつも通りのバチ先を採用しています。

リベットの決定

リベットこそ、好みが分かれると思います。ヴィンテージなんかは特に、男はこのリベットがカッコいいと言い、女はこれこそ要らんと言います。僕も30歳を過ぎたら、あると嬉しいけどなんだか無くても良いかもと思うようになりました。

カッコいいリベットとは?そんな風に考え始めると答えのない沼にハマります。プロのデザイナーとか、ロゴを考えられる人なら良いのですが、私は違います。今回は構造上、大きさの制限と立体感は出せないという条件がありまして、候補が限られています。

まずこの時も、レイバンのクラブマスターから始めます。あれは、ぺったんこなオーバルです。今見ると一番良い選択な気がします。なんて無属性で柔らかい雰囲気なんでしょうと。ぺったんこな長方形は、無属性なんですけど雰囲気が堅いんです。見れば見るほど最適解はオーバルです。でも、オーバルは絶対使えないので、どうしたものかと考えなくてはいけません。

ここも私の判断とか好みが入ってしまったので、後世があれこれ変更できる余白があると思います。とりあえず、柔らかい優しい雰囲気にする物がいいなとやっぱり思ったんですよね。そこで、タートのカウントダウンを参照しております。タートのカウントダウンは、リベットのパターンがいくつもあります。それこそオーバルもありますし、今回の銀無垢でも参照したaxe(斧)のリベットもあります。このアックスのリベットが秀逸で、やや釣り上がってグラマラスなフレームを、微妙にナードに優しい雰囲気に仕上げます。是非、カウントダウンは画像検索をしてみてください。フレームのアウトラインを目で追ったときと、リムからリベットに目で追ったときの印象が全く違います。あの優しさを採用しました。

そう思って、開発のベースとなる手元のアルミサーモントをみたら、そう言えばこれもそんな感じでした。2方向から検討して同じ結果なら、自信がもてます。これの立体感を無くして、後ろに機構を組み込む為に必要な分だけ縦幅を持たせたのが、完成品のリベットでした。リムの上端を鼻側から耳側に目で追って、耳側のピークに来たときにリベットに目を移すとなだらかに降るんです。この目の動きはタートのアーネルとかモスコットのレムトッシュの、フレームのアウトラインと同じです。

今後のこと

とりあえずこんな感じです。実際にテンプルの幅はなんだかんだとか細かくいろいろとありますけど、ざっくり私が検討したことを書いておきました。ちなみに今週の火曜日に鯖江の工場で見たときは、刻印無しの組み立てホヤホヤで一応持って帰ることも可能だったんですけどね。年末だしなぁというので、完全に仕上がってから入れます。

あとですね、鼻パッドが遅れて出来ます。銀無垢で。一番面積を広く出来る限界一杯のパッドです。それが1月か2月か、金型からになるので時間が掛かるそうです。それもあって、持ち帰るのを我慢しました。

デモレンズ込みの総重量が63グラムでした。太いセルで装飾パーツが付いたフレーム並みに重いです。前回の銀無垢のサーモント(クリアグレーの眉)の2倍くらいあります。重くなるのは予期していましたが、許容値のギリギリいっぱいでした。ガラスレンズは、まず無理でしょうね。

まず掛けてどんな感じか、それが心配だったんですけど、全く科学的ではない主観で言えば、重量ほど鼻の重さがあまり感じなくて、コレは大丈夫という直感がありました。バチ先のテンプルエンドの重みと摩擦なのか、やはりテンプルを末広がりにしたことで、重さを重さで制することが出来たのか分かりませんが、掛けられる感覚は大いにありまして、かなりホッとしております。想像の産物ではない現実のメガネとして成立しています。

今回も、鼻パッドの取り付けは箱です。商品価格に対して取るべき構造みたいな話もありますから、フレーム全体を消耗品にしたくありませんし、カシメとか抱きのパッドがヴィンテージライクでカッコいいのは承知ですけど、個人的には銀無垢は箱一択です。修理も交換も容易く、交換パーツの手数が豊富です。いまのところ925サーモントには、前回のサーモントのときに型で抜いた涙型の銀無垢の鼻パッドが取り付けられています。それでも鼻へのずしっと感は少なかったとは思います。でもそれで油断せず、むしろ先手を打っておきたくて大きな無垢パッドも制作中です。最悪どうしても重い、下がるならさらに奥義のシリコンパッド等が使えますから、まあこれも男は無垢に拘って女はむしろ目立たない透明が良いなあってなりがちなんですけど、フレーム全体を諦めることは無いんじゃないかなと考えています。ということで、仕上げの鼻パッド待ちです。それこそ鼻パッドの取り替えは簡単なので、1月中には鼻パッドが出来ていなくても入荷させようかなと考えています。

僕側の、なんかこういうの欲しいなあの“こういうの”の部分のデザインよりも、そのこういうのを具体的に製作すべく図面をデザインの方がかなり苦労されていると思います。その部分は書けないんですけどね。非常に変な表現ですが、それらのデザイン同士が衝突して、一箇所どうしても決断を下さないといけない部分がありました。それが眉パーツとテンプルの合わさるところの処理についてなんですけど、それを決めるときが一番悩みました。それは、物が届いたら書きます。

絶句
無垢のメガネ(925silver,SPM)

22.12.21

先々月のIOFTのときに、社長さんは年末に出来ると仰っていまして、製造のトップの方はまだまだ技術的に超えないといけないハードルって沢山あるんですけど…みたいな、そんな状態でしたし、僕もリップサービスかなと思っていました。単価と納期と、本当は外せない大人同士のルールを、物を作る制約条件から外した(外させていただいたですね)ときに、どこまで出来るのかが、何が人間の目論見を超えて出来上がってしまうのかが僕にとっての無垢のフレームの探究の目的みたいなところでして、無理オブ無理を強いている以上、納期の問い合わせはしないというのがマイルールです。いつも待ち続けています。なので、年越して完成は3月とか6月かなと思っていました。これは本当で、12月11日のブログ(v-e+f=2の回)で来年の新顔の登場が楽しみですなあと、現時点から眺めれば非常に空々しく書いてあります。寝耳に水でした。別件で今週の月曜日に問い合わせをしたときに、ついに出来ましたのご連絡をいただき、昨日は本当に急遽鯖江に行ってきた次第です。

オール925シルバー、銀無垢のサーモントです。

いつも通りネジはステンレスです。蝶番はカシメをしていません。ヴィンテージ等々とは異なる構造になっていますが、共有しやすいので一旦リベットと呼んでしまいます。銀無垢の眉パーツからリベットは取り外し可能です。眉毛が壊れても、蝶番の機構を取り出して眉毛だけを直せるようになっています。そしてリベットと裏の蝶番の受け側のネジまでが一つの機構となっていまして、それは全部APC(銀、パラジウム、銅の合金)です。ということで値段もやっぱり凄いっす。

カシメの構造はやらないと初めから両者が合意の上で進みました。僕としてはフィッティングの観点から、レンズの加工から、ファッションの観点から等々、実務のフィードバックしか出来ないしやらないと考えています。構造上、素材の特性上、それはやれないとメーカーさんが仰ってくれたことはやらないです。そこを無理して通して出来たものは、やはりメガネとして無理があったりすると思います。綺麗なオブジェじゃなくて美しいメガネにするべく、お互いの仕事の上での禁忌みたいなものは、必ず避けるようにします。

とか何とか言いながらも、出来上がった物の裏を見たらほとんどヴィンテージと遜色が無かったのは嬉しい誤算でした。写っている蝶番、フロント側もテンプル側に取り付けられているのも、パラジウム合金のAPCです。フレーム全体が経年変化し、色が変わり形状的にも柔らかいので凹んだり欠けたりしながら馴染むなかで、蝶番とネジは変色せずパキッと綺麗なままです。パラジウムは白金族の貴金属で、簡単にはプラチナの親戚で硬いです。APC合金も硬いです。おかげでつま先と踵がよく磨かれた、履き込んでシワのある革靴みたいな美しさを帯びることが期待出来ます。

僕の意図みたいなことは、また時間があれば書きます。書くほどに物がカッコよく見えなくなってしまう可能性があるのでやめたいところなんですけど、書きたい病なので書くと思います。基本的には、なんだか矛盾する表現ですけどヴィンテージらしさやブルバキらしさを消去することに努めました。これは本当です。今回の訪問も、共同開発とはいえ刻印をどうしますか?と尋ねていただいたことに対しての回答をすることも目的にありまして、いつも通りMIZだけでと伝えております。元AKBの前田敦子さんは本当に素晴らしい名言を残したと思います。その精神です。ですからデザインプロセスとしましても、とにかく私の消去というものが念頭にありまして、その弁明になると思います。個人的にヴァージル・アブローブームなので、僕も自分が考えたことを開示して、次にメタルサーモントを作る人がそこはもう考えなくても良いものだと時間短縮出来るように、マイルストーンを置くつもりです。

ただ本当に、豊橋時代の居候の時から銀無垢のサーモントを作りたいですねとお客さんと話し合ってきましたし、あれやこれや何だか色々あって、営業さんに伝えて4年くらいであれを起点とするのか2年前だか3年前のあれを起点とするのか、本当に色々ありました。銀無垢のサーモントを作ることは、店を始めた理由です。大きな理由です。皆さんに夢を叶えて頂きました。ありがとうございました。突然すぎて、まだ物が手元に無いってのもありますが、まだ実感が無いです。

図面のタイミングは、実はこの前のサーモントとほぼ同時期でした。個人店としては、個性がびしょびしょに溢れているみたいなことをしないといけないところですが、あっちのサーモントもこっちのサーモントも頭の中ではずーっと私の消去というのが頭にこびりついていまして、今年はなかなか精神的に大変ではありました。

_170831bk

pageTopLink