隙間とは925silver

23.01.16

肝はここの処理でした。テンプルと眉毛パーツの処理です。上の画像をみて、結果から申しますとほぼヴィンテージと同じ処理になりました。

ヴィンテージの蝶番部分を貼っておきます。

日本の美意識みたいなところで判断すると、この未処理の段差と言いますか眉とテンプルの切断は許しがたい部分になると思います。設計の段階でフロントからテンプルに向けて滑らかに繋がるように改編して、そのつなぎ目を合わせて精緻にきっちり仕上げるはずです。

今までは、そういう日本的な美しさに注目をし、一個智の美しさや面のあった美しさを味わうのも良いですなぁみたいな感じで、銀無垢のフレームやサンプラチナのメガネを紹介していたと思います。今回は一歩踏み込んでいます。もし先のように改編した場合に、得られる良さもあるんでしょうけれど、失われる良さもありますよねと。何なら失われる良さにフォーカスを当てて開発しましょうというのが個人的な狙いです。スローガンとしてはヴィンテージの再現、銀無垢でのアップデートなんですけどね。

今回の銀無垢のサーモントを載せます。

眉パーツとテンプルが別個のもので独立していたとして、その接点をどうするか?という問題があります。あれこれフレームを調べて銀無垢に適した構造を探りましたが、結果的にはヴィンテージと同じように眉とテンプルを用意しつつ、違うのは眉とテンプルを一切干渉させない構造にしたところです。たしか、0.3〜0.5ミリの範囲で、眉とテンプルの隙間をあける指示になっていたと記憶しています。テンプルは、硬いパラジウム合金に接地するようになっています。

いくら狙って微小な隙間を作るとはいえ、隙間なんです。これは出来上がった物を見るまで本当に不安で仕方がない部分でした。ヴィンテージのメガネではセルが縮んだりとか、そもそもの精度のこともあって隙間は乱発していますけどね。現代において銀無垢で作ればそれなりの値段になりますから、その値段で許されることか?みたいな自問自答は出来上がってくるまでずっとありました。

色々な角度から撮りましたけど、どうでしょう?ほとんど分からないと思います。一つはメーカーさんの隙間が微小であること、もう一つは隠さずにわかりにくくする工夫をしております。

今日に至るまで、隙間の事実を言わずに結構な方に見ていただいたんですけど、誰も気づいていないっぽいので成功したと思います。

隙間を目立ちにくくする工夫を考える上で、まず

そもそも隙間とは?

隙間と、どういうときに認識するのか?

つまり隙間と認識しやすい条件とは何か?

みたいなことを考えました。辞書で調べても、物と物の間くらいにしか記載がなく、隙間にしっかりと向き合った形跡がありません。そうなると自分で考えなくてはいけません。

隙間といえばなんですけど、私は実家の居間の引き戸を思い出しました。小学生のときは閉めが甘くて、隙間があいていると親によく怒られたんですよね。

そこで引き戸を観察して分かったことは、視線と直交する同一平面上に扉も壁もあると、隙間と認識しやすいということでした。例えば壁に枠みたいな囲いがあって、扉が枠よりも1ミリでも2ミリでも内側にあると、つまり扉と枠が同一平面上にないと、途端に微小な隙間を認識しにくくなります。ぜひ色々な引き戸を観察してみてください。

そこでさっきの3枚の写真を見て頂くと分かるのですが、眉とテンプルはどこから見ても段差があるようにしています。段差があって、眉とテンプルが別体ということを強調し、ヴィンテージっぽい感じの演出に一役買っています。それに加えて、もとは隙間をわかりにくくさせる意図を込めて、段差を強調しました。

ちょっと前に、テンプルのヤゲンのラインは何となく好みで入れたとか書いたと思います。まあそうなんですけど、一応隙間を分かりにくくするための意図もあります。もう一度、同一平面状に平らな面と面が並ぶと隙間と認識しやすいです。平らな机の上に、平らな下敷きと平らな下敷きが並んでいるのを想像すると、何となくそんな気がしませんか?そこで、一つを凸に、両方でも良いんですけど平面から飛び出ているような要素があると、隙間の認識が難しくなると思います。それでテンプル側をヤゲンのように凸にして、単純な平面にしなかったというのも一理です。

のらりくらり書きましたけど。眉とテンプルの処理はヴィンテージとほぼ同等に再現出来ました。銀無垢で。眉毛とテンプルは、銀の塊と塊なので、それが衝突している様は(実際は微小な隙間)、非常にダイナミックで美しいです。メーカーさんとのやり取りでも、ひたすら迫力とか粗野な感じとかそういうのは伝えていたのですが、まさにこのヴィンテージのような一見すると単純な(実は単純じゃない)構造でしか生まれない良さが再現出来たと思います。リ・ウファンの関係項だったか、そういう作品を見たことがあるのですが、大きいものと大きいものの衝突ですよね、まずは。そういうメガネが遂に出来ました。

 

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