アメリカンヴィンテージの素材megane

16.10.08

シャディーキャラクターが入ってしまったので、ちょっと長い記事を書きます。プラスチックに関する考察です。シャディーキャラクターについては、以前のブログをご覧ください。

ブログ:シャディーキャラクター

シャディーキャラクターは、ヴィンテージのメガネの市場では「アメリカンヴィンテージ」と呼ばれるカテゴリーにあります。おもに、古き良きアメリカと呼ばれるころの1950年代のメガネを中心に取り引きされています。1940年代以降、特に大戦後はプラスチックフレームが多く出回り、ヴィンテージの市場としても人気です。シャディーキャラクターのような形のメガネや、ブロータイプのメガネは時代に左右されない定番ですね。おおよそ、60年代くらいまでがアメリカンヴィンテージの範囲でしょう。あの入荷したメガネは80年代のものですが、タートとの親和性から、年代としては特異的にフォーカスされているという印象です。
現在アメリカンヴィンテージの世界は、ブルバキではカバー出来ていない範囲です。ゆくゆくは扱っていきたいと考えています。そういった理由で、今のタイミングでのシャディーキャラクターは、寝耳に水でした。今回は出どころも何故か日本という面白さなので、とても嬉しいと感じつつ、ビックリと困惑の半々という感じです。

ここで、その50年代周辺のアメリカンヴィンテージのメガネの素材、プラスチック事情についての考察に入ります。結論から申しますと、ザイル=セルロイドでは?という考えです。以下は、現段階でそのように判断する理由を、調べたステップ毎に記憶の意味も込めて書き綴っています。ご興味があれば。
先ほど出ました、“ザイル”という言葉を聞いたことがありますか?おそらく、すでにアメリカンヴィンテージのメガネを購入した方なら聞いたことのある響きかもしれません。ネットでも、チラホラ見かけます。その時代に使われていたとされるプラスチックの名称です。

手元に雑誌があります。V-MAGAZINEという、アジア圏で売られているメガネ雑誌の日本版、創刊号です。
そのアメリカンヴィンテージ特集のp.71に
「…1950年〜1970年代までは、石油分が多く耐久性に優れた“ザイル”という素材がその役を担っていた。…」
と記載があります。ただ、ネットでこのザイルという単語を調べても、材料のページに辿り着きません。アルファベットですと「ZYL」と略記してあるページ見かけますので、それで検索をかけますがヒットしません。少し違和感を覚えます。石油分が多いとは?化学反応によるものなので、石油をちょっと多めとか料理感覚のような記述にも違和感です。

さらにアメリカンヴィンテージの通販を検索しますと、ザイルという呼称が略した言い方ということに辿り着きます。「ザイロナイト」という名称が、略さない言い方と判明します。これで検索すると、注目すべきページに、ようやく辿り着きます。

財団法人 東京プラスチック会館は以下のページをご参照下さい
財団法人 東京プラスチック会館

ここの記述を見ますと、1854年にイギリスでセルロイドの前身の製品があり、それをザイロナイトと呼ぶとあります。その後、アメリカ人が1868年に発明したとあります。一緒なのか異なるのか、なんとも判別がつかない記述です。

さらに、ZYLの略記からZYLONITEで検索をしますと、まずは綴りが違うという事実にあたります。正式には「XYLONITE」です。Zの方は、よくあるスペルミスの例として検索に引っかかります。正式な綴りですと、次は英語版ウィキペディアのセルロイドの記事にあたります。先ほどのプラスチック会館の記事とは若干差異があります。同じく、セルロイドの歴史の一コマとしてザイロナイトは登場するのですが…。
英語版 ウィキペディア ザイロナイト

イギリスのセルロイドの前身の樹脂から改良して、新たにセルロイドをアメリカ人が開発したというストーリーとは若干異なります。アメリカの兄弟が、イギリスのセルロイドの前身である、ニトロセルロース系樹脂のコロディオンを使ってビリヤードの玉を作る過程の中で、ニトロセルロースと樟脳の化合物の製造方法の有用性に気づき、1872年にセルロイドとして特許を取ったということです。樟脳による製造方法自体は、イギリス側も初期のニトロセルロース系樹脂の研究で気づいており、それをザイロナイトと呼んでいたが、特許をアメリカ側に先に取られてしまって、セルロイドに塗り替えられたという感じです。その後、あれこれ悶着もあったようです。

たまたま最近手に入った児童用の科学誌「科学大観」では、ジャイロナイトという呼び方で、東京プラスチック会館みたいな記述がありました。違うのは、イギリスのザイロナイトと同じ製法でアメリカ人のハイアト兄弟が作って、セルロイドと命名しましたとあります。結果的に同じ製法であって、イギリスの方法をそのまま使って命名したというのは、英語版ウィキぺディアと異なります。折衷案みたいな内容です。
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(科学大観 21号 応用科学特集 昭和33年発行 株式会社世界文化社発行)

ここまで調べる限りですと、ザイルはセルロイドということが、かなりの確率で言えるのかなということです。

しかし、ザイルはセルロイドと同じということに対して、まだ反証のようなものがあります。それは匂いです。実際、私もアメリカンヴィンテージのメガネを嗅いだことがあるのですが、甘い匂いがします。チョコと白檀が混ざったような何とも言えない匂いです。セルロイドですと、通常はツンとする樟脳の匂いがします。ここが、ザイルはセルロイドと違う説のキーとなる箇所です。それが私も引っかかっていました。

セルロイドは、ニトロセルロースを樟脳で処理して作られます。分解はその逆に進みます。つまり、ニトロセルロースと樟脳に分解され、そのニトロセルロースはパルプと硝酸と硫酸の分解が進みます。

ここからは私も実際に確認出来ていませんが、気になる記事を見つけています。ヴィンテージギターで、ニトロセルロースで表面塗装してある時代があるという記事です。

ギブソンの記事
大戦後、爆薬での用途がなくなりニトロセルロースの過剰供給をさばく為、塗料として使われていたとの記述です。一部のギターにはその時代の名残があるものが現存しているようです。“独特な光沢”があり、さらにここからが重要ですが、ギター本体から“甘い香り”がするとあります。

もしこの年代のギターがあれば、ぜひ嗅いでみたいです。調べる限り、成分が同じはずなので、同じ匂いがするはずです。嗅ぎくらべて同じ匂いがすれば、ザイルはセルロイドと同じとかなりの確信を持って言えそうです。最後の確認をしたいなという思いです。物理でいう、実験による観測待ちです。

本当に長く、ネチネチと書きました。ここまで躍起になって調べたのは、分からないことへの探究心もあります。ですが、それ以上にアメリカンヴィンテージの高騰具合と、素材が良いとすることへの警鐘が出来ればという2つがあります。
セルロイドということになりますと、もちろんアセテート生地に比べて光沢は出ます。ただ、耐久性は劣ります。アセテートに比べて劣化しやすい素材です。
ですから、質の差で決めた場合は問題ないかもしれませんが、年代の背景プラス素材も現行より優れているということが決め手になっている場合は心配です。
今のところ、割と高い確率で私はザイル=セルロイドとみております。特殊な素材ではない為、思った以上に劣化が早くてヴィンテージのメガネに不信を抱いたり、メガネ自体が嫌いになってしまっては悲しいですからね。それを防ぎたいなという考えです。
むしろ現行のメガネも、セルロイドは貴重な素材として煽っているように感じるときもあります。そもそも、良さである光沢が美しいと宣伝していない場合、お客さんにメリットが伝わっているのか疑問なときもあります。劣化が早ければ、買い替えサイクルも早くなるので業界的にはいいんでしょうけどね。私も好きな素材ですけど、ちょっと考えさせられる素材でもあります。水滴でシミが浮く、革のコードヴァンに近い感覚です。こちらも磨いたら大丈夫ですけどね。美しさを維持する為の努力がいると思います。

この手のセルロイドとアセテートの関係の話は、映画「ニューシネマパラダイス」を見ると面白いです。
樹脂の歴史は、メガネよりも写真や映画のフィルムと2人3脚で発展している印象です。アセテートフィルムが出来る前は、セルロイドのフィルムなのですが、そのおかげで映画館が燃えています。セルロイドは燃えやすく、不安定な素材というのがそこからも読み取れます。アセテートは1930年以降の話です。

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(最高に泣ける映画です。)

以上、あれこれ調べてみましたが、そもそもザイルという略称の出どころも不明です。いずれにしましても当時物のカタログ等が出てきて、ザイル(ZYL)と印字があれば振り出しに戻ります。ただ、1872年から例えば1950年までの間に80年くらいの歳月がありますので、ザイル・ザイロナイトよりもセルロイドの名称の方がアメリカで根付いていると推測すれば、ザイル=セルロイド説は完全に覆ることもなく、より有耶無耶になることでしょう。なぜ、敢えてのザイル表記なのかと…。どう転んでもニトロセルロース系樹脂であることは間違いなさそうなので、素材としてはアセテートより耐久性が低いのではないか?という予想です。実際、アメリカンヴィンテージのメガネをバフ掛けしたあとの光沢を見ますと、セルロイドかなと個人的には感じます。光沢がトロッとしています。アセテートはツルッとカラッとしています。

有力な情報あればお待ちしております。後は、ギターの匂いを嗅がせてくださる方をお待ちしております。

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