銀無垢の使用例
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.10.14

店を始めた年に製造された初号機なので、そうなりますと5年か6年くらい使ったことになります。銀無垢の丸メガネです。昨年に引き続き今年は、銀無垢のサーモントを使用してみてその変化を調べている最中ということもあり、丸メガネは家に寝かしがちではありました。なのでこの2年の使用頻度は低めです。

はじめ3年くらいは、磨いて常にピカピカをキープしていましたが、今は丸メガネに関しては磨かないことにして燻し続けています。とは言いつつ、気になる箇所は手で擦りまくって光沢を復活させている為、銀と黒ずみのグラデーションになっています。

メガネに限らずの感覚だとは思いますが、使って傷ついたら、使って汚れたらおわりみたいな雰囲気が年々増している気がします。微弱ながら抗いたいとはずっと思っています。最近驚いたことは、スニーカーの洗浄の専門店が続々と出来ていることで、オジサンからしたら汚れたら汚れるほどカッコいいと思っていたのでショックでした。おニューの靴とか言われると恥ずかしく感じるタイプのおじさんです。おニュー、、、それも死語かもしれません。

店を始めた当初は、抗い方としてそもそも変化しない、さらには劣化という概念が無いぞということを前面に出していた気がします。今ももちろん変わりはなく、銀とかサンプラチナとか金とか、無垢の素材の普遍性に惹かれ続けています。その中で銀は、やっぱり黒ずんで馴染むのが魅力だよね的な、シルバーアクセサリーの愛され方のスタンダードに還った気がします。そういう心持ちにしておくと、傷も汚れも全て加点で毎日加点で、やや気持ちが楽です。

Dialogues ヴァージル・アブロー 平岩壮悟訳 アダチプレス(2022)

最近読んだばかりのあの本です。強烈すぎて、今日も引用です。このこと自体は、ヴァージル・アブロー以外にもあれこれ言及があると思います。村上隆の超芸術起業論とかにも、ほとんど同じ構造の議論があったはずです。コンテクスト勝負とか、そういう表現だった気がしますが、忘れました。

この話は、ハイブランドにおける戦術のはなしだから、ノンブランドな私には関係ありませんと言いたいところですけどそんなことも無いぞと、この2年くらいは強く感じるようになりました。情報というのかコンテクストというのかストーリーというのか気にしませんが、もはや物が添え物、オマケになってしまっているように感じるときもあります。ブランドの方が、静かに物を販売しているようにも思えてきます。

引用箇所にラグジュアリーとありますが、現在のラグジュアリーと核となる“垂涎の的”の感覚とはズレているが故に、銀のメガネもくすんだり傷ついたりして各人が使用した痕跡がつくと金銭的価値が減ります。でも使ったら終わるんじゃなくて、使ったら始まって欲しいですよね。昔から使い込んで味を出すと表現しますけど、自分の為に消費することはとても贅沢ですしね。

円柱の傾き問題
雑記

22.10.12

まさか、こんなことを考えるとは思っていなかったですし、けっこう長い時間ずっと考えるとも思っていなかったです。テーブルの上に棒があったとして、どれくらい傾いているかってことなんですけど。

実際の物で用意してしまったので、柔らかいイメージのみ受け取って下さい。棒というのは理想的な円柱で向きをつけらるような目印が無い物を想定しております。

傾きということで、どこからの傾きなんだという話になりまして、それはいつものカッターマットが分かりやすく可視化しています。横といってもいいし、水平線からのズレでも良いんですけど、その角度が、パッと思いつく棒の傾きですよね。この写真だと45度です。

すこし天邪鬼に225度傾いていると言われても、大人な私はうんうん頷けるつもりでした。眼鏡屋を営むなら乱視の軸とか度数変換に関わる部分なんですけど、ここまでの理解で十分です。慣習で、軸は180度までに範囲を絞って記載します。225度って言ってもいいけど、45度とぴったり一致しているよねという判断で、そうします。

もう一度写真を見ておきます。傾きというのは一点(原点)で固定された回転の動きです。まずそのように捉えたのが角度による把握でした。ここで原点から伸びる方向で傾きを表現してみます。すると、原点から45度方向に伸ばすのと、原点から225度に伸ばすのでは、伸ばす運動が正反対です。45度と225度の違う角度を同じとみなすのも納得いかない人もいるとは思いますが、あれは頭で棒を各々の角度に回転させてみれば一緒かなぁって思えます。それか、0度に傾いている棒を180度の傾きにすると言う方が分かりやすいかもしれません。傾いていない棒を、これまた傾いていない180度に傾きを直すという、もはや棒の回転だけです。

話を戻しまして伸びる方向で表現すると、向きが正反対です。光と陰、天と地です。傾きの表現の違いで、そんなことが生じてしまって良いのでしょうか?もう一度写真を見ます。1本の棒が、(変な表現ですが)1つの様態で傾いているだけです。やっぱり2通り傾いているようには見えません。

実は私は、先にそういうのを使ってあれこれ書かれた論文をいただいていまして、その中で円柱の傾き問題が既知として応用されているのを見てから、上記の問いといいますか、傾きの意味を考えてみました。それでも相当感動しました。乱視の軸は実務で使いますが、円柱の傾き具合を深く考えたことはありませんでした。円柱の傾きの表示問題は、もしかすると工学部では当たり前なのかもしれないです。カッコ良く言えば、円柱の傾きをベクトルで表現したいってことになるんですけど。解決法はとても単純そうにみえますが、答えを知らない状態からだとパッと思いつかないです。暇つぶし用の考え事には最高かもしれません。

分散
修理とメンテ

22.10.07

トップ画像は、あれこれ調子をとって、眉パーツが完全にレンズと干渉しないようにした後です。セルはどうしても経年変化で縮みます。今回は、穴を埋めてからあけなおしました。それでも穴が半個分ズレています。

調子をとった後に半個分のズレということで、穴あけの前に一箇所、プラスチックの厚みがある部分で削りを入れています。

ブローチネジが収まっている箇所を、削っています。はじめの画像で、元々穴の開いている箇所は、上下には余白があっても、左右にはあまり余白が無いです。なので、新たに穴を作り直すにしても、上下の移動だけにしたいということで、横の縮みに対しては別の箇所で調子を取っています。

横を合わせて、大体の穴の位置を決めてから、リムの裏側にくる眉パーツのはみ出しを削っています。黄色のラインに沿って削り、メタル枠に沿わせています。近視の強度ということで、きっちり処理しました。

リム側に、はみ出た部分を削る前です。案の定、メタル枠にきっちり入るレンズが眉毛パーツがあると全然きっちり入りません。耳側のセルが割れている中古品をよく見かけますが、多分干渉したまま枠入れを終えて、いつか脆くなって割れてしまうんだろうなと予想しています。ということで、あれやこれやの修正が入りました。

向かって左側が未処理で、向かって右側が修正済みです。どっか一点で調子を取りすぎると、眉毛の印象が変わるので、あれこれ分散させているというのも理由です。削る手前、どうしても華奢になってしまいますが如何でしょうか?一回り、なんだかスリムかな?くらいの違いに留められたのではないかと思っています。

このタイプのサーモントの枠入れは毎度不測の事態で悩んでいる気がします。右眉を穴埋め中で、もう少し作業は続きます。

明日は休みです
営業案内

22.10.03

10月4日(火)は、月例の眼科さん出張のため店は休みです。

ダイアローグ
雑記

22.09.30

トムサックスとの対談目当てで買いましたが、読んだ感想としましては、他も、むしろ他が、もっと面白いかも。対談が年代順に並んでいる為か、後半になればなるほど熟している感がジュワジュワです。

面白いんですけど、読めば読むほど怖いですよね。ファッションの天上界では、物の良さどうのこうのではなくて、意味での殴り合いが現在も行われていて、その殴り合いでは本物とか物が良いとか元祖とか、そういうことが意味をなさなくなってきていると。その動きを現代アートのデュシャン以降になぞらえて云々というのがヴァージルアブローの流儀だと、対談から何となく把握出来ます。

となりますと、その意味の殴り合いに於いて、日本はまずその輪に入れていない可能性があるってことですよね。それか少なくとも、歴史のある“ものづくり”みたいな今まで強力な武器だったものが、つくりや品質を維持していても、いやむしろますます向上させても、今後は意味を与えられず打撃力が低下するという予言にも取れます。

こういう状況のときに、まず思いつく対処法としましては、輪に入らないと自分から宣言することです。ファッションから外れる、ファッションじゃなくてプロダクト(私の場合メガネ)だし、と積極的に距離を取る方法が思いつくんですけど、それに対しても本の中ではあらかじめ釘が打ってあります。

「p.34 私や私の友人たちは従順ではありません。それぞれ独立した考えの持ち主です。近しい友人の多くは、オフ-ホワイトのシャツなんて絶対着ないと言っています。人びとはよくファッションに興味がないと言いますが、その人たちの格好を見ると、往々にしてノームコアを着ているんです。私はこうした緊張関係のなかに新しいアイデアを見いだします。…」

少なくとも提供する側は、ファッション性を無視できない状況にあると予め述べられています。

昨年から今年にかけては、今このタイミングで反省をしますと、特にその武器の調節をしてみたという感じがします。

ツーポイントは、金無垢の手彫りです。サンプラチナの縄手です。なんかようわからんけどと言われてしまいそうですが、つまり緻密さの塊です。日本のものづくりの良さが前面に出た感じです。ただそのときから何となく、ファッション性には気を使っておりました。例えば上の枠なしメガネが3本載った写真を見て頂いて、茶色のレンズが元ネタです。80年代の枠無しメガネです。ダンヒルのフレームです。そのままではバブリーな雰囲気ですし、現在のヴィンテージメガネの流れも汲まなきゃなので、写真のピンクのレンズのメガネ、アメリカの30年代のメガネですがその雰囲気に寄せることにしました。足して2で割ると、真ん中右の緑のレンズのメガネとなります。

サーモントは、数ヶ月前にもあれこれ書いたのでアレですけど、銀無垢でサーモントを作ったらカッコいいよねきっと、そういうモチベーションだけに最終的には絞りました。銀という素材やそもそものサーモントという題材、そして日本のものづくりという要素をあれもこれも盛り込んだときに、荘厳過ぎてオブジェに還るという懸念がありました。もちろんサーモントも細部は緻密ですけどね。そこでいつも以上にファッションに寄せてみるということで、眉毛がクリアグレーのアセテートになっております。その辺詳しくは、過去のブログを漁って下さい。結局サーモントのときも、色々うるさく書いてしまってますけど、いつもよりは作りがどうのこうのという分析や、ツラがあって美しいみたいなことは書いていないはずです。物をコンテクスト抜きで見たら日本っぽく見えないようにしたわけです。日本でしか出来なかったという事実のみに、日本らしさを詰め込んだ感じです。

枠無しメガネにしてもサーモントにしても、もちろん同一のメーカーさんに作ってもらっていまして、ものづくりの精度を落とさずに、むしろそれの露出具合の調整でこういうある種対極的な結果になったと、振り返るとそんな気がします。

露出具合をどれくらいにするべきか、こういった悩みが生まれるわけですが、この本のどこかでヴァージルアブローがヘルベチカのフォントを使う理由が述べられており、それが参考になりそうです。数箇所あってページを忘れてしまいましたが、要は相手の無意識的な期待を裏切るという意味があるようです。日本人がものづくりの観点から喋ることは期待され過ぎていて、受け手の耳をただ通過しているかもしれないです。であれば、物の良さがやっぱり好きだからこそ、そこを諦めたくないからこそ、もっと隠して忍び込ませる必要があるのかなと、本を読んでいま一度強く思いました。

少し前に読んだ、穂村弘の形而上と形而下の関係を思い出したので、また『にょっ記』を読み直します。

空気うまい
営業案内

22.09.27

水曜日から営業再開します。

子どもの付き添いで入院していたんですけど、一年でルールが変更なのか、それとも厳守かつ例外なしになったのか分かりませんが、短期は入ったら交代なしで出られず、それで今という感じです。先週水曜日の22時くらいから付き添っていまして、当初は自分が付き添う予定ではなかったんですけど、色々規定をパスできたのがまさかの自分だけだったので装備品が脆弱なまま入院(付き添い)してしまい、ブログも更新出来なかったです。

これもなんか良いです
ヴィンテージのメガネ

22.09.20

パッドがフロントと同じ生地から作られていますし、ほっそいテンプルでカシメ蝶番ですし、60年代かもです。レンズが大きめなので、CR39の誕生以降かなとか考えますと、70年代の読みもあり得ます。サイズはボクシング表記で55□19.5です。

見所は、やっぱりここかと。フロントのリベット付近にあるピヨっと突き出した意匠です。

レンズの形も、微妙に一番外側の輪郭と変えてあり、それがまた良かったりします。変え過ぎると面白メガネ寄りになってしまうんですけど、その手前な気がします。

大きめだと、掛けるとふにゃっとした印象になるメガネなんですけど、この意匠やレンズの形のおかげでキャットアイメガネ的な、軽快で妖艶な感じもあります。

ちょいデカ
ヴィンテージのメガネ

22.09.17

イメージは、アンナのアンナ・カリーナです。そもそもフレームの色が違うのは分かっていたんですけど、記憶の補正が入っていました。これはレンズサイズ52ミリです。流石にちょっと大きいかも。アンナのアンナは大きめの丸メガネといっても49ミリくらいですかね。

似たような年代のヴィンテージなんですけど、なんか良いんですよね。横から見ると、リムの切り出しが真っ直ぐでは無いことがわかります。特に眉毛側の上部は、外側から顔に向けてのラインが斜めで、下の画像で確認するとスロープみたいに右肩あがりになっています。リムで均等では無いことから察すると、偶然の産物なんでしょう。リムの下端は割と真っ直ぐテーブルに接地しています。意図していなさも、なんか良いんですよね。正面から見たときに、ボリュームが抑えられて柔らかい雰囲気が滲み出て、優しい感じに全体がまとまる気がします。

例えばヴィンテージのタートもそうで、フロントの切り出しで垂直がやや崩れているんですけど、スモークとかの貼り合わせのカラーなんて特に垂直の崩れが判然としている気がします。あれのおかげで真正面から捉えたときに、輪郭をなぞりにくくて、ただの平面に見え無い気がします。

次の月曜日は休みます
営業案内

22.09.16

きっと台風なので、19日(月)は休みます。

ケーブルの巻き直し
修理とメンテ

22.09.14

ケーブルのへたりでした。以前、別のフレームでへたった部分をロウで固めて修理したこともありますが、修理あとがどうしても目立つのと、巻き直しより強度が劣ります。ロウで固めるので、弾力性が無くなってしまうんですよね。なので今回は、巻き直しを依頼しました。

中が折れてプラプラしています。

ケーブルの巻き直しは、中々お値段の掛かる行為です。物と修理のイメージと相談になりまして、勘案してとりあえずロー付けで済ますというのも、もちろんあり得ます。今回のメガネは20〜30年前に村田眼鏡舗(日本橋)で購入された物ということで、気合い入れた修理方法をとりました。ケーブルは金属が細いのでへたりもしょうがないですけど、さすがの無垢物でほかの各パーツは全くもってダメになっておらず、まだまだガシガシ使えそうです。

今回、巻き直しを依頼する際に、ちなみにもともとの製造って…みたいなことを聞きました。なるへそこれがそれねとなりました。こんな店ですけど、是非繋げる一助はしたいと思っています。

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