先々月のIOFTのときに、社長さんは年末に出来ると仰っていまして、製造のトップの方はまだまだ技術的に超えないといけないハードルって沢山あるんですけど…みたいな、そんな状態でしたし、僕もリップサービスかなと思っていました。単価と納期と、本当は外せない大人同士のルールを、物を作る制約条件から外した(外させていただいたですね)ときに、どこまで出来るのかが、何が人間の目論見を超えて出来上がってしまうのかが僕にとっての無垢のフレームの探究の目的みたいなところでして、無理オブ無理を強いている以上、納期の問い合わせはしないというのがマイルールです。いつも待ち続けています。なので、年越して完成は3月とか6月かなと思っていました。これは本当で、12月11日のブログ(v-e+f=2の回)で来年の新顔の登場が楽しみですなあと、現時点から眺めれば非常に空々しく書いてあります。寝耳に水でした。別件で今週の月曜日に問い合わせをしたときに、ついに出来ましたのご連絡をいただき、昨日は本当に急遽鯖江に行ってきた次第です。
オール925シルバー、銀無垢のサーモントです。
いつも通りネジはステンレスです。蝶番はカシメをしていません。ヴィンテージ等々とは異なる構造になっていますが、共有しやすいので一旦リベットと呼んでしまいます。銀無垢の眉パーツからリベットは取り外し可能です。眉毛が壊れても、蝶番の機構を取り出して眉毛だけを直せるようになっています。そしてリベットと裏の蝶番の受け側のネジまでが一つの機構となっていまして、それは全部APC(銀、パラジウム、銅の合金)です。ということで値段もやっぱり凄いっす。
カシメの構造はやらないと初めから両者が合意の上で進みました。僕としてはフィッティングの観点から、レンズの加工から、ファッションの観点から等々、実務のフィードバックしか出来ないしやらないと考えています。構造上、素材の特性上、それはやれないとメーカーさんが仰ってくれたことはやらないです。そこを無理して通して出来たものは、やはりメガネとして無理があったりすると思います。綺麗なオブジェじゃなくて美しいメガネにするべく、お互いの仕事の上での禁忌みたいなものは、必ず避けるようにします。
とか何とか言いながらも、出来上がった物の裏を見たらほとんどヴィンテージと遜色が無かったのは嬉しい誤算でした。写っている蝶番、フロント側もテンプル側に取り付けられているのも、パラジウム合金のAPCです。フレーム全体が経年変化し、色が変わり形状的にも柔らかいので凹んだり欠けたりしながら馴染むなかで、蝶番とネジは変色せずパキッと綺麗なままです。パラジウムは白金族の貴金属で、簡単にはプラチナの親戚で硬いです。APC合金も硬いです。おかげでつま先と踵がよく磨かれた、履き込んでシワのある革靴みたいな美しさを帯びることが期待出来ます。
僕の意図みたいなことは、また時間があれば書きます。書くほどに物がカッコよく見えなくなってしまう可能性があるのでやめたいところなんですけど、書きたい病なので書くと思います。基本的には、なんだか矛盾する表現ですけどヴィンテージらしさやブルバキらしさを消去することに努めました。これは本当です。今回の訪問も、共同開発とはいえ刻印をどうしますか?と尋ねていただいたことに対しての回答をすることも目的にありまして、いつも通りMIZだけでと伝えております。元AKBの前田敦子さんは本当に素晴らしい名言を残したと思います。その精神です。ですからデザインプロセスとしましても、とにかく私の消去というものが念頭にありまして、その弁明になると思います。個人的にヴァージル・アブローブームなので、僕も自分が考えたことを開示して、次にメタルサーモントを作る人がそこはもう考えなくても良いものだと時間短縮出来るように、マイルストーンを置くつもりです。
ただ本当に、豊橋時代の居候の時から銀無垢のサーモントを作りたいですねとお客さんと話し合ってきましたし、あれやこれや何だか色々あって、営業さんに伝えて4年くらいであれを起点とするのか2年前だか3年前のあれを起点とするのか、本当に色々ありました。銀無垢のサーモントを作ることは、店を始めた理由です。大きな理由です。皆さんに夢を叶えて頂きました。ありがとうございました。突然すぎて、まだ物が手元に無いってのもありますが、まだ実感が無いです。
図面のタイミングは、実はこの前のサーモントとほぼ同時期でした。個人店としては、個性がびしょびしょに溢れているみたいなことをしないといけないところですが、あっちのサーモントもこっちのサーモントも頭の中ではずーっと私の消去というのが頭にこびりついていまして、今年はなかなか精神的に大変ではありました。