カテゴリー:無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

仕入れしてしまいました
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

23.01.08

年明けのソフト側の諸問題を解決出来ず、ブログ本文中の画像がまた不鮮明に戻ってしまいました。色々試みて、直せないのでしょうがないですね。

週明けの、今月分の眼科さん出張が無しになったこともありまして、それだけゆとりがあるならと銀無垢のサーモントを仕入れしました。

あと、何だかんだ自分にとっても念願の銀無垢のサーモントの完成ということで、早く手元で、もっとじっくりと観察したいという欲求が高まってしまい、なんならメーカーさんのインスタにあけおめ投稿でサーモントの全貌を載せてるし!ということで、大きい銀無垢の鼻パッドの完成はまだ先ですが、メインのフレームは仕入れております。

イベント最中に書いてますけど、予想以上に僕のブースだけ暇すぎるので、この前の続きと言いますか、銀無垢のサーモントの製作に関してひとつだけ僕が決定しないとどうにも進まない部分があったと申しましたけど、その辺のことも時間があれば書いてみようと思います。推敲が長いので、更新まで出来なかったらすみません。ヴァージル・アブローの3%プロセスといったり、トムサックスの“クリエイティビティ イズ エネミー”だったり、色々な表現に置き換わって度々現れますけど、エビデンス主義という表現に化けて出てくることもあるかもです。最後の最後に、危ない橋は渡らない、デザインはしないと言いながら、エビデンスの無いところに突き当たってしまいました。エビデンス主義と責任回避みたいな話もあるので、そんなことを気にかけるとエビデンスのないことの決定というのは大変気が重かったです。その辺がスパスパッと積み重ねられるのが、デザイナーということなんだなと痛感しました。

全部書いておきました
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.12.24

狙い

銀無垢でサーモントを作りたいと思ったきっかけは簡単です。1950年代のアメリカに、既にそれに近い形の物が存在しています。オールアルミの、物によってはそれに金張りを施したサーモントです。

開発にはこの2本を用いました。アルミが大量に製錬されるようになったのが世界大戦後の1950年代らしく、軽くて強度もあって錆びにくくて、最高の素材っぽい宣伝が当時もされています。それこそロイヤルだったかデラックスだったか、そういう高価なサーモントとして位置付けられていたことが調べると分かります。そこから想像を膨らませるのは容易くて、これが貴金属だったら…となるわけです。結局当時物のアルミのメッキなり張りのフレームを見ましても、消耗品として製造された形跡といいますかパーツの選定が行われていまして、遺すとか受け継ぐみたいな意味は込められていません。このサーモントのデザインがメガネのスタイルの一つのスタンダードになって、70年後の今もあるとは想像し難いですからね。そこで、銀無垢で日本の技術をみっちり詰め込んで、作りの面から素材の面から不変性を帯びさせようというのが狙いです。

それは自分たちの仕事では無いと言われればそれまでですし、各ブランドが「メガネ」というカテゴリーをどれくらい重きを置いて見てくれているのかということに依りますから、以下は勝手な怒りということなんですけど、店を始める前のメガネ業界のサラリーマンのときから、クロムハーツやティファニーがそれを作ってくれていないことにとても憤りを感じていました。両者ともアメリカで、銀無垢がウリで、目につくありとあらゆるものを銀製品で作っているはずなのに、なんで全て銀無垢のメガネは無いんだと。しかも、古き良きアメリカを代表するサーモント、レイバンのクラブマスターも1986年から販売していて不動のスタイルであるサーモントを。過去を漁れば、銀ではなくてもオール金属で作っていた形跡があるのに…。チタンやセルのフレームに飾りやロゴの印刷をしてあるメガネは沢山あるので、おそらく両者ともメガネはロンTと同じ扱いなんでしょうけどね。とりあえず、一庶民がパッと思いつくような物が世界に無くて、お金で買えなくて、それを憧れに生きていけなくて、これは由々しき事態だと勝手に思い込んだのがスタートです。

ベースとなるフレームの選定

925シルバーのサーモント
50年代のアルミのサーモント

アルミのサーモントも、各社がそれぞれ試行錯誤を繰り返した形跡があります。その中で、シューロンの眉毛に注目しました。眉毛の真ん中で凹んでいます。リムに沿わせています。これを採用しました。アルミのサーモントが何を意図してプレスしたのか分かりかねますが、銀無垢で作るとなれば常に重量を気にしないといけません。ボリュームを十分感じるのに、ちょっとだけ軽量化出来そうです。

ちなみに、ヴィンテージメガネ界でサーモントといえば、AOのサーモントを至高とする見方もあります。どうしようかなと迷ったんですけど、一旦ヴィンテージの価値観から離れて、冷静に見れば全世界に未だに行き渡っているのはレイバンのクラブマスターだよなぁということで、クラブマスターも参照したのかなっていうくらい似ている、上の二つから開発を進めています。

サイズの決定

今回はボクシング表記で47□21です。資本が∞であればアレコレ出来ますが、現実問題としてやはり一つに絞らないといけません。日本人の男の平均の瞳孔間距離(PD)が65ミリというのを参照しております。今っぽい掛け方でpd=fpdとなりますと、44□22も候補には上がりますが、出来上がったものは銀の塊で相当な迫力であろうという予測から、レンズはちょっと大きめでゆったりと、ちょっとpdが広めでもジャストでカッコいいというところを狙いました。開発のサンプルでは46□22の表記でして、正確に測ると47□21ですよと工場から通達がありまして、そうしましたらその通りに作りましょうということになりました。レイバンのクラブマスターは51□21と49□21です。ひょっとしてお前もその分析を…という発見がありました。ヴィンテージメガネの世界では大きめ、現代のメガネからすると小さめ、クラブマスターの一個下というサイズになっています。

80年代の日本製ほぼクラブマスターと並べました。それは50□20です。レンズを大きくすると眉毛も大きくなって重たくなりますし、レンズもいくらプラスチックとはいえ重量が出ます。ここは色々な余地があるところでしょうし、流行り等々でいかようにもレンズ横幅とブリッジ幅は変わると思います。

テンプルの決定

テンプルはこんな感じです。現行のレイバンのクラブマスターは、テンプルは真っ直ぐな棒です。50年代のサーモントも、セル眉のタイプであれば真っ直ぐな棒の物も他にあるのですけど、アルミのサーモントは、大抵が耳に向かって末広がりです。この末広がりの処理は、個人的にはカッコいいなと思うんですけど、現代的にはテンプルが派手だと避けられる傾向にあるよなあとか、色々と考えの余地がありました。銀無垢でサーモントを作るにあたり、どちらを採用しようかなと。

アルミで末広がりにするのは、どのような意図があったのか、いまとなっては分かりません。ある程度面積を用意して、ゴージャスに見せる目的だったのかそうでは無いのか。実際に50年代のアルミのサーモントにおいて、テンプル等々に彫金が施されている物も存在しています。なんとなく、幅を持たせてゴージャスな演出にしていたような気はします。

今回、画像を見ると分かる通り、末広がりのテンプルを採用しました。最終的には、棒にするのも末広がりにするのも、個人の好みの問題に帰着すると思います。そこで銀無垢でサーモントを作ることに対して、どちらが優位かを鑑みて末広がりを採用することにしました。

・鉛直方向に幅のあるテンプルの方が、その方向の力に対して強度が確保できる

・銀無垢の眉パーツが重いため、後ろがよりヘビーになる末広がりなテンプルの方が重量バランスが良さそう

※ただし、重量バランスと総重量の葛藤は常にありまして、総重量の観点からすると、真っ直ぐなテンプルの方が軽そうです。

・薬研のラインを末広がりのテンプルには入れられるので、横方向の強度も出せる

横の薬研のラインも、ヴィンテージから採用しました。

上が薬研のライン有り、下は無し

銀無垢はカシメを出来ません。さすがに横が物足りんのかなと思いまして、ヴィンテージよりもっと明瞭な山にして、ラインを先端まで入れています。思考を変えて、カシメがないのを活かして、眉毛パーツまで視線を誘導するような鋭いラインを入れました。

真っさらな平面で、手彫りの余地を残しておいた方が良かったかもしれませんし、ここもまだまだ考えられそうです。真っさらな平面で物足りないことはなくて、そこに少し私の感覚が入り込んでしまったなと、今になって反省です。とりあえず末広がりで、テンプルエンドはいつも通りのバチ先を採用しています。

リベットの決定

リベットこそ、好みが分かれると思います。ヴィンテージなんかは特に、男はこのリベットがカッコいいと言い、女はこれこそ要らんと言います。僕も30歳を過ぎたら、あると嬉しいけどなんだか無くても良いかもと思うようになりました。

カッコいいリベットとは?そんな風に考え始めると答えのない沼にハマります。プロのデザイナーとか、ロゴを考えられる人なら良いのですが、私は違います。今回は構造上、大きさの制限と立体感は出せないという条件がありまして、候補が限られています。

まずこの時も、レイバンのクラブマスターから始めます。あれは、ぺったんこなオーバルです。今見ると一番良い選択な気がします。なんて無属性で柔らかい雰囲気なんでしょうと。ぺったんこな長方形は、無属性なんですけど雰囲気が堅いんです。見れば見るほど最適解はオーバルです。でも、オーバルは絶対使えないので、どうしたものかと考えなくてはいけません。

ここも私の判断とか好みが入ってしまったので、後世があれこれ変更できる余白があると思います。とりあえず、柔らかい優しい雰囲気にする物がいいなとやっぱり思ったんですよね。そこで、タートのカウントダウンを参照しております。タートのカウントダウンは、リベットのパターンがいくつもあります。それこそオーバルもありますし、今回の銀無垢でも参照したaxe(斧)のリベットもあります。このアックスのリベットが秀逸で、やや釣り上がってグラマラスなフレームを、微妙にナードに優しい雰囲気に仕上げます。是非、カウントダウンは画像検索をしてみてください。フレームのアウトラインを目で追ったときと、リムからリベットに目で追ったときの印象が全く違います。あの優しさを採用しました。

そう思って、開発のベースとなる手元のアルミサーモントをみたら、そう言えばこれもそんな感じでした。2方向から検討して同じ結果なら、自信がもてます。これの立体感を無くして、後ろに機構を組み込む為に必要な分だけ縦幅を持たせたのが、完成品のリベットでした。リムの上端を鼻側から耳側に目で追って、耳側のピークに来たときにリベットに目を移すとなだらかに降るんです。この目の動きはタートのアーネルとかモスコットのレムトッシュの、フレームのアウトラインと同じです。

今後のこと

とりあえずこんな感じです。実際にテンプルの幅はなんだかんだとか細かくいろいろとありますけど、ざっくり私が検討したことを書いておきました。ちなみに今週の火曜日に鯖江の工場で見たときは、刻印無しの組み立てホヤホヤで一応持って帰ることも可能だったんですけどね。年末だしなぁというので、完全に仕上がってから入れます。

あとですね、鼻パッドが遅れて出来ます。銀無垢で。一番面積を広く出来る限界一杯のパッドです。それが1月か2月か、金型からになるので時間が掛かるそうです。それもあって、持ち帰るのを我慢しました。

デモレンズ込みの総重量が63グラムでした。太いセルで装飾パーツが付いたフレーム並みに重いです。前回の銀無垢のサーモント(クリアグレーの眉)の2倍くらいあります。重くなるのは予期していましたが、許容値のギリギリいっぱいでした。ガラスレンズは、まず無理でしょうね。

まず掛けてどんな感じか、それが心配だったんですけど、全く科学的ではない主観で言えば、重量ほど鼻の重さがあまり感じなくて、コレは大丈夫という直感がありました。バチ先のテンプルエンドの重みと摩擦なのか、やはりテンプルを末広がりにしたことで、重さを重さで制することが出来たのか分かりませんが、掛けられる感覚は大いにありまして、かなりホッとしております。想像の産物ではない現実のメガネとして成立しています。

今回も、鼻パッドの取り付けは箱です。商品価格に対して取るべき構造みたいな話もありますから、フレーム全体を消耗品にしたくありませんし、カシメとか抱きのパッドがヴィンテージライクでカッコいいのは承知ですけど、個人的には銀無垢は箱一択です。修理も交換も容易く、交換パーツの手数が豊富です。いまのところ925サーモントには、前回のサーモントのときに型で抜いた涙型の銀無垢の鼻パッドが取り付けられています。それでも鼻へのずしっと感は少なかったとは思います。でもそれで油断せず、むしろ先手を打っておきたくて大きな無垢パッドも制作中です。最悪どうしても重い、下がるならさらに奥義のシリコンパッド等が使えますから、まあこれも男は無垢に拘って女はむしろ目立たない透明が良いなあってなりがちなんですけど、フレーム全体を諦めることは無いんじゃないかなと考えています。ということで、仕上げの鼻パッド待ちです。それこそ鼻パッドの取り替えは簡単なので、1月中には鼻パッドが出来ていなくても入荷させようかなと考えています。

僕側の、なんかこういうの欲しいなあの“こういうの”の部分のデザインよりも、そのこういうのを具体的に製作すべく図面をデザインの方がかなり苦労されていると思います。その部分は書けないんですけどね。非常に変な表現ですが、それらのデザイン同士が衝突して、一箇所どうしても決断を下さないといけない部分がありました。それが眉パーツとテンプルの合わさるところの処理についてなんですけど、それを決めるときが一番悩みました。それは、物が届いたら書きます。

絶句
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.12.21

先々月のIOFTのときに、社長さんは年末に出来ると仰っていまして、製造のトップの方はまだまだ技術的に超えないといけないハードルって沢山あるんですけど…みたいな、そんな状態でしたし、僕もリップサービスかなと思っていました。単価と納期と、本当は外せない大人同士のルールを、物を作る制約条件から外した(外させていただいたですね)ときに、どこまで出来るのかが、何が人間の目論見を超えて出来上がってしまうのかが僕にとっての無垢のフレームの探究の目的みたいなところでして、無理オブ無理を強いている以上、納期の問い合わせはしないというのがマイルールです。いつも待ち続けています。なので、年越して完成は3月とか6月かなと思っていました。これは本当で、12月11日のブログ(v-e+f=2の回)で来年の新顔の登場が楽しみですなあと、現時点から眺めれば非常に空々しく書いてあります。寝耳に水でした。別件で今週の月曜日に問い合わせをしたときに、ついに出来ましたのご連絡をいただき、昨日は本当に急遽鯖江に行ってきた次第です。

オール925シルバー、銀無垢のサーモントです。

いつも通りネジはステンレスです。蝶番はカシメをしていません。ヴィンテージ等々とは異なる構造になっていますが、共有しやすいので一旦リベットと呼んでしまいます。銀無垢の眉パーツからリベットは取り外し可能です。眉毛が壊れても、蝶番の機構を取り出して眉毛だけを直せるようになっています。そしてリベットと裏の蝶番の受け側のネジまでが一つの機構となっていまして、それは全部APC(銀、パラジウム、銅の合金)です。ということで値段もやっぱり凄いっす。

カシメの構造はやらないと初めから両者が合意の上で進みました。僕としてはフィッティングの観点から、レンズの加工から、ファッションの観点から等々、実務のフィードバックしか出来ないしやらないと考えています。構造上、素材の特性上、それはやれないとメーカーさんが仰ってくれたことはやらないです。そこを無理して通して出来たものは、やはりメガネとして無理があったりすると思います。綺麗なオブジェじゃなくて美しいメガネにするべく、お互いの仕事の上での禁忌みたいなものは、必ず避けるようにします。

とか何とか言いながらも、出来上がった物の裏を見たらほとんどヴィンテージと遜色が無かったのは嬉しい誤算でした。写っている蝶番、フロント側もテンプル側に取り付けられているのも、パラジウム合金のAPCです。フレーム全体が経年変化し、色が変わり形状的にも柔らかいので凹んだり欠けたりしながら馴染むなかで、蝶番とネジは変色せずパキッと綺麗なままです。パラジウムは白金族の貴金属で、簡単にはプラチナの親戚で硬いです。APC合金も硬いです。おかげでつま先と踵がよく磨かれた、履き込んでシワのある革靴みたいな美しさを帯びることが期待出来ます。

僕の意図みたいなことは、また時間があれば書きます。書くほどに物がカッコよく見えなくなってしまう可能性があるのでやめたいところなんですけど、書きたい病なので書くと思います。基本的には、なんだか矛盾する表現ですけどヴィンテージらしさやブルバキらしさを消去することに努めました。これは本当です。今回の訪問も、共同開発とはいえ刻印をどうしますか?と尋ねていただいたことに対しての回答をすることも目的にありまして、いつも通りMIZだけでと伝えております。元AKBの前田敦子さんは本当に素晴らしい名言を残したと思います。その精神です。ですからデザインプロセスとしましても、とにかく私の消去というものが念頭にありまして、その弁明になると思います。個人的にヴァージル・アブローブームなので、僕も自分が考えたことを開示して、次にメタルサーモントを作る人がそこはもう考えなくても良いものだと時間短縮出来るように、マイルストーンを置くつもりです。

ただ本当に、豊橋時代の居候の時から銀無垢のサーモントを作りたいですねとお客さんと話し合ってきましたし、あれやこれや何だか色々あって、営業さんに伝えて4年くらいであれを起点とするのか2年前だか3年前のあれを起点とするのか、本当に色々ありました。銀無垢のサーモントを作ることは、店を始めた理由です。大きな理由です。皆さんに夢を叶えて頂きました。ありがとうございました。突然すぎて、まだ物が手元に無いってのもありますが、まだ実感が無いです。

図面のタイミングは、実はこの前のサーモントとほぼ同時期でした。個人店としては、個性がびしょびしょに溢れているみたいなことをしないといけないところですが、あっちのサーモントもこっちのサーモントも頭の中ではずーっと私の消去というのが頭にこびりついていまして、今年はなかなか精神的に大変ではありました。

3年経過
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.12.16

ちょっと記憶が曖昧です。おそらく3年ほど経過した、サンプラチナのメガネです。手彫りの装飾が施してあります。

サンプラチナの特性上、925シルバーと違って変色はありません。硬い素材のため、けっこう何気なしに使っても彫金の切削面が削れて丸くなることは無くて、未だに精緻な鋭さを放っています。

いま変色しないと書きましたが、ロー付けの接合箇所は黒くなります。ブリッジのメイン部分と、レンズの掴みのパーツの間に1本棒が渡っていることが確認できます。そこが黒ずんでいます。プラモデルにガンダムマーカーで線を入れる感じで、この黒ずみでちょっとした重厚感がでます。

ここも黒ずんでいます。分かりにくいんですけど、キャッチとテンプルの接合箇所がちょっとだけ黒いです。

このブリッジが面白いのは、サイドの「く」型の箇所は四角柱の面が正面に向けられているのでは無く、辺が正面に向けられています。菱形の棒でこの形を作ったという表現の方が分かりやすいかもしれません。手彫りをブリッジに沿って全部に施すことで改めて認識することができましたが、そうしますとどの角度から眺めても、ブリッジのラインを目で追う際に二つの面が目に入ることになります。これでいえば、手彫りの面と何もない真っさらな面です。その対比が非常に美しいです。尚且つ30年代のフレームのように細くラインを用意したのにも関わらず、ただ華奢に見えるだけでは無くて力強かったり豊かに見えます。ダイナミックに見え始めます。色々な見え方が内包されているということがそこに帰依しているでしょうし、実際に正方形の対角線の長さは√2倍なので真正面からこのブリッジを捉えたときは、一つの面だけを見ている時より幅が広く見えています。

元ネタと同じ箇所に手彫りをするとこんな感じです。これは在庫を撮りました。真っさらな面が傷なくピッカピカです。

この彫金のスタイルですと、視線が彫金が施されている水平部分に自然に吸い込まれます。それによって、鼻で固定するフィンチメガネのような風に見え無くもないです。この彫金の方が、クラシックで静謐さを感じます。

例えば30年代の金張りのフレームであれば、ブリッジ全体にプレスで彫金模様を施すのが一般的かと思います。そのルールに従うと全部に手彫りを施した方がクラッシックに見えそうなものですけど違いました。この構造に全部彫るルールを当てはめますと、あの時代には無かったダイナミックさが滲み出てしまうというのは、先ほど書いた通りです。どのような雰囲気にフレームを方向付けたいのか、それで彫金のパターンをどうするのかが変わります。

ピンク色のレンズ
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.11.28

自分用で使っている銀無垢のサーモントのレンズを変えてみました。

変える前はこんな感じでした。原因不明ですけど燻されるスピードが速いみたいで、同じく4、5ヶ月使っている方と比較してもブリッジやリム周りの黒ずみ方が著しくて、それによる重厚感の演出もちょっとだけ多いなあと思うようになりました。

対処としては2つ。フレームを磨いて綺麗にするか、レンズの色を変えてG.I.グラスのイメージを取っ払うかです。せっかくのエイジングを無くしてしまうのももったいないので、今回はレンズの色を変えてミリタリー感を減らすことにしました。

今まで、サーモントが主流だった60年代〜70年代におそらく行われなかったであろう色にして、とにかくサーモントの醸し出す威厳みたいな雰囲気をふにゃふにゃにしてみようというのも狙いの一つです。その成果がトップ画像のあのピンクです。ピンク色で、最後どかーんと威厳も重厚感も全て、壊れちゃうとそれもいけないから壊れる手前で共存出来ないかなと思って、あんな感じです。

ちょっとまえに、度無しのクリスタルピンクがどうのこうの書いたと思います。多分2、3ヶ月前だと思いますがあれくらい前から探していました。妖艶な感じの少ない、ポップなピンク色です。この前のお客さんの表現が的確でそのまま貰っちゃうと、オレンジ色っぽいピンクを探していました。それなら銀無垢のサーモントにもギリギリ合いそうだなと。オレンジ色っぽいピンクの着想は、アメリカンヴィンテージの、フレッシュ(flesh)カラーなんですけどね。レンズカラーでヨーロッパ式のサーモントフレームに、アメリカを混ぜることを今回も念頭においています。且つポップで軽やかにしたいということで、オレンジっぽいピンクです。

(向かって左もノンコートです。レイガード435のスイート(PK))

クリスタルピンクの弱点は、度無しオンリーなんです。度付きの場合は、それを元に見本染色で近似色で染めることになるんですけど、薄いカラーは特になのか都度微妙に変わりますし、仕上げのコーティングによってもズレます。どの光が入射して、どの光が跳ね返るかが色の理論なので、コーティングでもズレますし、なんなら完全には予測不可能なズレがそこで生じます。

そんなわけで、メーカー独自の何かしらのピンク色で、毎回安定したクリスタルピンクの近似色が無いかなと探していました。いつものこの店のこの味的な、そういう色を。それがようやく見つかりまして、今回のレンズ交換に繋がっていきます。そのピンクは、HOYAのレイガード435のピンクです。盲点でした。名称がレイガード435のスイートでして、そのスイートに惑わされていました。ピンクの中では、スイート感少なめのピンクだと思います。

比較で置いたクリスタルピンクとほぼ同じ色味だと思います。しかもヴィンテージメガネが好きな方なら、なんとなくアメリカンヴィンテージのフレームのあのピンクっぽくないですかね?ブルーライトカットの一環で出た色でして、青をカットしたピンクということで黄色っぽい、黄色とピンクが混ざってオレンジっぽさが出ています。

最終、コーティングで少し赤っぽさが出たかなとも思いますが、オレンジっぽいピンク感は健在です。フレッシュカラーのセルフレームはとてもカッコいいんですけど、例えばピンクのフレームにグレーのカラーだと、やっぱり仕事に依ってはダメかなとか、さすがの僕でも考えてしまいます。そこでグレーのフレームにピンクであれば、ピンクが薄くて肌に馴染む黄色っぽさがあればいけるかなと思って、見本をとりあえず用意したいという狙いもあって作ってみました。

レイガード435の濃度としては、15パーセントくらいでしょうか。手に置いた感じで、日焼けが少し濃く見える程度の、おそらく掛けた状態ではレンズに色が入っていますと言われないとわからない程度の濃さです。横から見たときに、コバの発色が綺麗でメガネ全体が一層綺麗に見えていい感じです。ロレックスのミルガウスの緑の風防も綺麗で素敵で憧れるんですけど、ああいうさり気なさもあって個人的には満足です。

4年もの
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.11.23

サンプラチナの丸メガネ。型直しのご依頼でした。販売して4年以上経過しています。

サンプラチナは色の変化はありません。ロー付け箇所が小さく黒くなるくらいです。全体にびっしりと小傷が入って、落ち着いた光沢を放っています。こういう感じも良いですね。

ネジも、摩耗で緩くなる等々は見受けられず、とりあえずクリーニングと注油で終わりです。

印象の比較
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.10.30

おまけ分析。一個前のサンプラチナにセル巻きしたフレームについて。

いつものと並べてみました。写真右端の智の比較です。メガネは玉型が一番大事という派閥もあるとは思いますが、個人的には智→ブリッジの順で見ていると思うので、その順に大事に思ってる派閥です。

サンプラチナのレギュラーメンバーから、鼻あて付きを載せました。60年代くらいのメガネまでよく採用されている割智とか爪智とか界隈では呼んでいると思いますが、駒が真ん中でパカっと割れてレンズを挟み込んでいる智です。パカっと割れて開くときに、テンプルもいっしょに挟み込みます。なので、レンズを変えるときは2つのネジを緩めます。それが割智です。ちっさければちいさいほど、レトロでカッコイイです(かなり主観)。

店では、この智で、レンズが40ミリ前後で、ブリッジは一山のタイプ等々の、よりレトロなテイストの物もあります。レンズの形、大きさ、ブリッジの形状等々で、20年代〜60年代くらいまでのどの雰囲気にも振り分けられるんですけど、とりあえずメガネの黎明期っぽい作りなのがこの智です。

写真の撮り方が悪いのか、割智の方が面積が広くてゴツく見えてしまいますが…その辺は実物を確認していただくとして、上からと下からで比較しています。一個智は、L型の塊がまずあって、レンズ留めのネジが収まる部分と、テンプルの駒が収まる部分が切削されています。まさに一個の塊でレンズの保持と開閉機構をテンプルに持たせており、それぞれ独立しているのでレンズを変えるときはネジは一箇所だけ緩めます。

メガネから独立させて、一個智のみに焦点を当てると、デカければデカいほどカッコいい気がします。栄生のトヨタ産業技術記念館に行くと感じますが、工作機械等々の巨大な金属の塊は、もうそれだけでカッコいいです。金属が大きい塊で存在しているというのは、モダンなカッコ良さがある気がします。アクセサリーやジュエリーも大きければ大きいほど、まずはカッコ良いと思っています。身体とか服とか色々なものと相対させたときにどうなんでしょう?みたいな悩みはあるんでしょうけど、とりあえず生物とは異質な物が大きいというのは、畏怖まで感じ無いにせよ違和感を覚えるのは確かです。

一個智も、もちろんメガネのパーツですからメガネに引き戻して考えたときに、大きければ大きいほどめがね全体としてカッコいいのかというのは???でして、いつまでも悩める議題です。スーツの肩パットみたいな感じで、智が大きく張り出すとメガネも力強いマッチョな雰囲気になるので、現代の傾向としては智は小さくするべきなんでしょうけど、一個智の美学としては大きくありたいということで、ここで矛盾が生じます。その相克のおかげで三者三様であれこれプロダクトが生まれるのかなとも思っています。フィッティング的にも、智は大きくあって欲しいですね。

横で比較すると分かりやすいかも。どちらもテンプルが細い部類に入ると思いますが、割智の方はも一つ華奢な感じがします。よくある表現としてはカッコ良さのベクトルが違うとかありますけど、本当にそんな感じです。

たまには気分を変えたいということで、すでに購入して頂いたフレームに巻くことも可能です。私も、銀無垢の一山のラウンドに巻いてみようか悩み中です。ちなみにカクカクした玉型はセル巻き出来ないのでごめんなさい。

セル巻きの新色
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.10.30

展示会IOFTの注文分が届きました。サンプラチナにセル巻きです。

黄色なんですけど、クリアイエローで下のサンプラチナの光沢が合わさってゴールドっぽく見えます。

つづいて緑です。キウイっぽい緑です。

緑も黄色も、インテリアでいうところの昭和レトロポップみがありました。羽根が緑で、土台がメタルの扇風機を良いなあと見るその感覚に近い、良い緑と黄色でした。確かに80年代のフレームで、ハッキリと記憶にあるのはジョンレノン(メガネのライン名)の丸メガネで、大きい丸にこれと同じような黄色のセル巻きが施してあるものです。他にも、仕入れのときにピックしない物の中に、安価なサングラスで元気なカラーのセル巻きが施してあるのを何度も見ています。七宝塗装でボストン型に赤とかピンクを乗せていたり。そういう色々な物に共通してあったであろうあの年代のポップさが今回のセル巻きにはあるなぁと、あの年代に生まれたばかりであの年代にまだ自我が芽生えていなかったであろう人間が申しております。

メガネの横の部分を智と言いますけど、今回は普段ブルバキで置いてあるのとは違うタイプのフレームに、緑と黄色のセル巻きをしました。今回の品番はMI-444で、3年くらい前にテンプルが紫檀の削り出しに改造されたモデルを一度入荷したことがあります。ヴィンテージのメガネ界隈からしたらレンズが大きめかもしれませんが、それが極端に小さいだけかもしれなくて、46□22というサイズは普通の大きさかちょい小さめくらいです。それでMI-444の智は堅い雰囲気の一個智、テンプル側のコマまで含めればスパルタ智です。

よく分からない用語を使うと上みたいな感じですが、セル巻きの色とその雰囲気に応じて、ベースとなるフレームの雰囲気を合わせてみたということで、80年代の雰囲気のまんまアップデートしてみました。

もし、こういう元気なカラーの当時物のフレームがあったとして、年代的にフレームの大きさは例えば50□18とか52□16という感じで真ん中が詰まった雰囲気のフレームだったりします。また、80年代であればおそらく智の作りはヨロイの形式で作られることが多いと思います。何だかんだ忠実な80年代の再現というよりは、いまの感覚から80年代に1歩2歩ズラしたくらいな感じです。

銀無垢の使用例その2
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.10.16

その2ということでサーモントを3ヶ月間、ほぼ毎日使った例がこちらです。名古屋は16日日曜日の段階でも昼間は25度を越えています。暑いです。でも、汗が滴り落ちるまではいかなくなってきまして、そうなると銀無垢のメガネも、そろそろエイジングの速度が遅くなってきます。しばらくは、下の貼り付けた画像くらいの燻され度で過ごすことになりそうです。フロントの智の部分は、個人差あると思いますが私は全然触っていないようです。いい具合にムラのある燻され方がしてあって、正面のピカピカ感は初めの頃より大分抑えられました。

あとブリッジですが、かなり力強い雰囲気が燻されることで足されています。

もっと傷が入ったり、欠けたり凹んだりの荒々しい要素が足されると一層カッコいいのかなあとは思いますが、値段が値段ですし、やっぱり勇気なくて自主的なハード使用は出来ないです。普段通り使ってこんな感じです。ひどく傷なり何なりが付いた時に、落ち込まないように心の予防線を張っておくくらいにしています。

銀無垢の使用例
無垢のメガネ(925silver,サンプラチナ,木)

22.10.14

店を始めた年に製造された初号機なので、そうなりますと5年か6年くらい使ったことになります。銀無垢の丸メガネです。昨年に引き続き今年は、銀無垢のサーモントを使用してみてその変化を調べている最中ということもあり、丸メガネは家に寝かしがちではありました。なのでこの2年の使用頻度は低めです。

はじめ3年くらいは、磨いて常にピカピカをキープしていましたが、今は丸メガネに関しては磨かないことにして燻し続けています。とは言いつつ、気になる箇所は手で擦りまくって光沢を復活させている為、銀と黒ずみのグラデーションになっています。

メガネに限らずの感覚だとは思いますが、使って傷ついたら、使って汚れたらおわりみたいな雰囲気が年々増している気がします。微弱ながら抗いたいとはずっと思っています。最近驚いたことは、スニーカーの洗浄の専門店が続々と出来ていることで、オジサンからしたら汚れたら汚れるほどカッコいいと思っていたのでショックでした。おニューの靴とか言われると恥ずかしく感じるタイプのおじさんです。おニュー、、、それも死語かもしれません。

店を始めた当初は、抗い方としてそもそも変化しない、さらには劣化という概念が無いぞということを前面に出していた気がします。今ももちろん変わりはなく、銀とかサンプラチナとか金とか、無垢の素材の普遍性に惹かれ続けています。その中で銀は、やっぱり黒ずんで馴染むのが魅力だよね的な、シルバーアクセサリーの愛され方のスタンダードに還った気がします。そういう心持ちにしておくと、傷も汚れも全て加点で毎日加点で、やや気持ちが楽です。

Dialogues ヴァージル・アブロー 平岩壮悟訳 アダチプレス(2022)

最近読んだばかりのあの本です。強烈すぎて、今日も引用です。このこと自体は、ヴァージル・アブロー以外にもあれこれ言及があると思います。村上隆の超芸術起業論とかにも、ほとんど同じ構造の議論があったはずです。コンテクスト勝負とか、そういう表現だった気がしますが、忘れました。

この話は、ハイブランドにおける戦術のはなしだから、ノンブランドな私には関係ありませんと言いたいところですけどそんなことも無いぞと、この2年くらいは強く感じるようになりました。情報というのかコンテクストというのかストーリーというのか気にしませんが、もはや物が添え物、オマケになってしまっているように感じるときもあります。ブランドの方が、静かに物を販売しているようにも思えてきます。

引用箇所にラグジュアリーとありますが、現在のラグジュアリーと核となる“垂涎の的”の感覚とはズレているが故に、銀のメガネもくすんだり傷ついたりして各人が使用した痕跡がつくと金銭的価値が減ります。でも使ったら終わるんじゃなくて、使ったら始まって欲しいですよね。昔から使い込んで味を出すと表現しますけど、自分の為に消費することはとても贅沢ですしね。

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