話のついでに、不同視について。
定義が曖昧で、具体的にどれくらいの左右の度数差を不同視と呼ぶのかがはっきりしていませんが、だいたい絶対値の差で、(2.00〜2.50)離れるとそう呼ばれます。なので、お客さんから検眼前に「私って左右の視力に差があるんだー」的なジャブを頂くことがちょくちょくありますが、基本的にはこの不同視と呼ばれるくらいまで差があるケースに当たることはあんまり無いですね。例えば、人間の顔面も完全な左右対称では無いように、目もそんな感じに多少の差はあるのでしょう。
不同視は、とにかく考えることが増えます。理論をそのまま形に出来ないケースが何パターンもありまして、点の答えが得られないときが多々だからです。領域を示すことで解の存在を述べることは出来ますが、具体的な表示は得られないわけです。絶対的な答えが消失します。この辺にあんな感じのがあるわーというくらいまでしか言い切れない、ここにコレがあるとまでは言い切れないという感じです。
度数に応じて、像の拡大縮小効果の大小があります。プラスレンズであれば拡大効果が、マイナスレンズであれば縮小効果があり、共に数値が大きければ、それぞれの効果も大きくなります。近視の矯正にはマイナスレンズが使われており、程度の差はあれ、目ん玉が小さく見えてしまうことが避けられないのはその為です。
それでですね、他にもまだ考えることはありますが、この拡大縮小効果を取り上げてみます。この効果も、不同視においては数値通りの眼鏡製作で良いかどうかに一石を投じます。
例えば、右s+2.00・左s+5.00として、像の拡大率を計算してみます。初等の光学では、理想的な状態のみを扱って理論を習うことが多いです。薄レンズとして厚みを無視できるものとして習いますが、実際のレンズはもちろん厚みがあり、もう少し複雑です。
レンズの前面カーブの値が要るので、その仮定次第で拡大縮小率も変動しますが、大体右で5パーセント、左で12パーセントくらいの拡大率となりました。この拡大率の差が、今回では7パーセントくらいありますが、大きいのか小さいのかが問題です。大きければ、それは人間が頑張って慣れて、埋めようと努力しても埋まらない差となりますから、度数を矯正しようとして別の問題に直面することとなります。
この差が大きいかどうかは、不同視が絶対値の差で2.00〜2.50以上を指す場合が多いことを鑑みますと、経験的にそして一般的に大きいんでしょうね。一般的には大きいんでしょうけど、当たり前ではありますが個々人にとって大きいものであるかどうかは、分からないと言う方が正確だと思います。科学というものは、どこまで分かってどこから分からないのかを明瞭にすることを目的としますから、ちゃんと科学的なステップを踏んで、分からないに到達すること自体はネガティブで落ち込むようなことでもなかったりします。ですが、最後は物として販売する以上、分からないままは許されません。許されないと言いますか、分からないままどれかの方針に決定をし、アウトプットをしなければなりません。また、例えば臨界期というような不可逆な時期であるというような条件が加われば、その決定の重みは増します。重みが増すので、慎重になって考えれば考えるほど分からないが増えますし、それぞれの方針が対立してきてしまい、製作者は迷宮にはまります。
不同視をキーに、雑談してみました。デザインと葛藤みたいな話もあると思いますが、科学とか医学とかの領域の、それこそ絶対的っぽい度数にもありますよというだけの話でした。