久々に真面目なことを書いて、店にコクを出そうと思います。
皆さんも、何本かメガネを所持し始めると感じたことがあると思います。同じ度数、同じ芯取り(光学中心を適切にフレームにセットする)でも、使用感と見え具合に若干の差があると。
よくあるのがセルフレームとメタルフレームの掛け替えの時で、セルの方が総じて眼にピッタリしますから、度数効果で強く出る場合です。セルのフィッティング不良で、メガネが下がった状態が恒常的であれば、度数は弱く出ます。これはコンタクトの話にも繋がります。
今回の考察したいケースは、それとは異なります。2本ともメタルフレーム、おそらく頂間距離も傾斜も殆ど同じ、瞳孔と光学中心の関係も同じ、レンズ設計も球面設計で屈折率も同じで、長く使った時に、集中力や眼の疲れ方に差があるケースです。
この2本とも私が加工したので、残すはアレしかありません。アレとはレンズの中心厚です。プラス処方の方でした。中心厚の違いで生じる、像の拡大・縮小効果の差でしょう。業界用語では Spectacle Magnification と言います。略してS.M.と表記します。
1本目は、フレームからご購入頂きレンズはコーティングまでしっかり拘って、どうせ特注ならと、ついでに外径指定をしてプラスレンズの中心厚を削りました。2本目は、既に持っていたフレームのレンズ交換でして、費用の面もあり、在庫レンズから交換しております。
ちなみに、球面度数は+1.00です。レンズが小さい場合は、プラス度数のみ外径指定で薄く出来ます。費用も安いです。
外径指定前。屈折率1.60選択で中心厚2.7ミリ。ごめんなさい、こっちが2本目
屈折率1.60選択、外径55ミリ指定。0.7ミリ削れます。こっちが1本目
今回の状況ですと、1本目は中心厚が2.0ミリで、2本目は中心厚が2.7ミリです。ここで注意しておきたいのは、“屈折率、レンズ設計、度数”は、同じという点です。
では、度数も屈折率もレンズ設計も同じレンズ、異なる条件が中心厚のみという条件で、像の拡大効果にどれほど差があるかを調べていきます。ここまで読んでくださった皆さん、お気付きの通り、森道とサカスプと日曜日という条件が重なって、ブルバキは暇です。
まずは、S.M.の式を調べます。認定眼鏡士であれば一度は計算をしたはずです。流石に私も公式は覚えていません。資格は、必要なときに必要な箇所が引き出せることが肝心だと、個人的には考えています。
眼鏡光学Ⅲ (キクチ眼鏡専門学校) p.31
こういう式が出てくると、それだけで確かにコクが出そうですが、実際は難しくはありませんしコクはまだまだこれからです。複雑さに惑わされずによく見ると足し算・引き算・掛け算・割り算しか含まれていない、簡単な構成です。それに、大人になれば、こういうのは得意な人に任せればO.K.でしょう。
計算は得意な人に任せるとしても、この式の大事な心は掴みたいところです。それはS.M.がM1とM2の掛け算でわかることです。そしてM1を形状要素倍率と呼び、M2を度数要素倍率と呼びますが、つまりレンズを通って出来る像は、レンズの形(厚みや前面のカーブ)でも、レンズの度数でも、どっちでも変わりますよと、伝えてくれています。何となく自然な認識通りで良くて、レンズのアレコレが変わるとやっぱり連動して像も大きくなったり小さくなったりしますというわけです。
おそらくM2の方は、何となく皆さんご存知なはず。強い近視の人は、レンズ越しの眼が小さく見え、逆に遠視や老眼が強いとレンズ越しの眼が大きく見えます。それです。
そして、馴染みのないM1、今回はこれを比較することで1本目と2本目の像の大きさを比較出来ます。念のため、両者M2は同じですから。
ちなみに、D1という項は、とりあえず共に+3.00にしています。外径指定によって前面のカーブに変更があり、若干差が出ているかもしれません。むしろそう。ただ無視できる差として仮定し、レンズの中心厚の差が、像の大きさにどれくらい影響を及ぼすかのみに絞って計算してみました。
M1(t=2.0)=1.0389 裸眼より3.9パーセント像の拡大
M1(t=2.7)=1.0533 裸眼より5.3パーセント像の拡大
およそ、1.4パーセントの差でした。うん、思ったより小さい。ただ、これくらいの差でも、使用感の違いを感じる場合もあるようです。統計を取った訳ではなさそうですが、本の例題に近いものが載っていました。そして、1%の差も侮れないですよの警句も載っており、実際にそういう症例がぼちぼちありそうなことが読み取れます。あるから例題なんでしょうね。
レンズの値段について、やっぱり皆さん気になりますしブルバキでも沢山尋ねられます。物の違い、経営状況の違い等々の沢山の違いがあって簡単には返答できません。他所の値段を聞いても、そうでしょうねぇくらいしか反応出来なかったりもします。まあでも、差について、自分の中から言えることの一つは、こういうコクの違いです。あんまり自分から言うことではないんですけど。ほとんど自慢ですし。
そしてブルバキも、まだまだ足りていないです。もっとコクを出したいなと、いつも考えています。ちょうどお客さんに使用感の違いを教えて頂いて、その疑問にお答えしたかったので書いてみました。