枠替えのご依頼でした。
「この中から使えそうなものがあれば…」と、3本ほどフレームを持参していただき拝見したところ国産チタンフレームに混ざって、明らかに光沢が違うものが1本混ざっていまして、それがこのフレームでした。金無垢のナイロールです。腕の飾りが凝っていまして、K18YG・K18PG・K14WGでネジってあります。これがトップの画像の某トリニティ感な部分なんですけど、華やか過ぎずいい感じでした。玉型次第では、男の人でも違和感なくかけられて、エレガントな感じをちょい足しできる、良い装飾だなと思いました。
いまから20年〜30年前の金価格が落ち着いていた時代に、やはりそれなりに金無垢のフレームは売れていますね。出張するようになってお持ち込みの枠替え案件は、もう3本目かそこらです。それを、結局は3〜5年で使い捨てっぽく販売しちゃっている結果、眼鏡が10年かそれ以上漂流してしまい、眼鏡界最果てのブルバキに辿りついてしまっているわけですから、色々事情はあれどいかんなあという気がします。販売するときは、おそらく一生モノとか言っているでしょうしね。
これが、お持ち込み時の状態です。使用感はありますが、そもそも錆びる金属ではありませんから、基本は使えるという態度で臨むべきかなとは思います。もちろん腐らないですし。先セルはヒビ割れがあり、汎用品で交換です。パッドは今買うと高いですし、白化が進んでいないのでバフがけで対応します。
レンズ下端を吊る、ナイロン糸は交換です。特別な話でも無いんですけど、レンズ上端のガイドももちろん交換できます。何パターンかありますが、だいたい日本のは金属の溝に、ダルマ型のナイロンレールを噛ませています。これも念のため交換です。
完成が上二枚です。三枚目は、レールと糸を変えてレンズを嵌め込む前の段階です。皮脂を除去して、糸も時間が経つと黄ばみが出ますから、透明な新品に変えることで眼鏡全体の光沢を蘇らせます。
ちなみに。パッドのセルとナイロンレールが含まれていますが、大体の重量で14グラムです。やっぱりフルリムで20グラム前後、ナイロールで15グラム前後という感じです。これは、例えば金の使用量と上代の関係で、だいたいどんなフレームもこれくらいの金の使用量でこれくらいの値段で、金の眼鏡の世界は足並みが揃えている・揃ってしまっている、そんな風にも説明出来そうです。あとは、眼鏡の設計の観点からしますと、81年にチタンのフレームが誕生してから“良い眼鏡”の観点として軽さが登場し、尚且つ普及してくるわけです。「とにかく軽い眼鏡下さい」という要望は、結構あると思います。それか、なんでその眼鏡買ったの?という質問の答えに、「軽いから!」という返答がまず返ってくるとかですね。軽さは、今も眼鏡フレームにおける強烈な価値の一つです。
そうなりますと、貴金属の良さの観点のひとつ「重量がある」というところと反発し合います。どっちを重視したら良いのか?煩悶しつつ時代が流れて悪戦苦闘しているうちに、これくらいの重量なら違和感なく掛けられるだろうということで、先ほどの数値に様々な商品の重量が収束していったのかもしれませんね。重量バランスも大事なんですけど、そもそも総重量があり過ぎる場合には、顔面に乗せた時のバランスという議論は立ち込めることも無く、ただ不快で痛いということになります。ですから、一般的な金無垢の眼鏡がこの重量なので、それより重い眼鏡を作りましたというだけでは、即座に凄い!みたいにならないのが眼鏡における強い制約条件でして、時計やジュエリーと違って表現が多種多彩にモリモリ増えていかないのは、そういう難しさがあるからかもしれません。