この前みたいに、蝶番の真ん中が無い云々でしたら店でアレなんですけど、このレベルは無理なので工場送りになります。右蝶番は一番上のコマが無いです。ネジの頭ごとコンビで無くなっており、ネジ抜きしないとテンプルが外せません。ただ、蝶番の上という大事な部分が吹っ飛んで無くなっており、工場へ送る前の時点で、おそらく蝶番ごと交換だろうなということでテンプルはプラプラの状態で送りました。左蝶番は一番下のコマが無くなっており、ネジの締め上げが出来ません。
フランスとその周辺のヴィンテージフレームは、けっこう生地が硬くてリム切れも多いイメージです。カシメの再打ち込みに際しては、一回り太いピンを打ち込むことになります。工場の技術があることは前提に、こればかりは亀裂が入らないようにお祈りしかありません。最後は生地のポテンシャル頼みです。
工場から上がってきたのがこちら。無事に蝶番を替えて頂けました。毎晩の祈りが通じて、亀裂もありません。めちゃ綺麗です。
全体の磨きと、テンプル側の真ん中のコマの磨きは当店で。修理がめっちゃ綺麗な仕上がりだったので、最後の一押しでほとんど修理した痕跡が無くなりました。
以下は、あくまで予想なんですけど。
裏面のピンの再打ち込みの形跡は1本です。磨く前にテンプルを外したところ、コマとコマの間にカシメてはいないピンの頭が垣間見えます。
パーツの返却を見ても、左右同じ仕上がりで外したピンが2本です。次はフロントを正面から観察します。
向かって右、耳側が新しいピンです。そして、かなり分かりにくいのですが、向かって左の鼻側のピンは一回り細いため、多分これは修理前の元のピンです。
おそらく、元の蝶番を外す際に鼻側のピンはそのまま残して再利用しています。これは、新しい蝶番が横並びで2本ピンを打ち込むにはスペースが足りない為でしょう。そのままでは、元の間隔で2本のピンを打ち込むことが出来ません。そこで、コマとコマの間に穴を開けて、残してあった鼻側のピンをその穴に通しています。空きスペースには、ピンを抜き去った耳側の穴と位置合わせをした新しい径の太いピンを打ち込み、蝶番をしっかりと保持することが出来ています。蝶番側の穴が片方は余白側で、もう一方こんな感じでコマとコマの間にある物は見かけたことが無いので、おそらくこういうことだと思いますけど、標準でそういう蝶番が鯖江に存在していたら、褒めすぎですみません。
ただでさえ、生地が痩せたりピンが緩んだり何だかんだで、蝶番金具はガタつきをおこします。ピンが1本だと、さらに回転の動きが生まれてしまいます。よりガタつき易く、緩みが進むとくるくる回ります。古い鼈甲のフレームでピンが1本のものを見かけますが、基本はモーメントが生じないように、2点以上で蝶番は保持するのが良いでしょう。特に今回の修理品は、蝶番を取り付ける際にあらかじめ生地側に蝶番金具が収まる窪みをつくる“座ボリ”の工程が飛ばされているフレームです。ピンを打つ前の金具が、生地の上で安定していない訳です。座ボリがあり、それで仮固定されてモーメントが生じなければ、ピン1本の打ち込みでも良かったのかもしれません。
緩みにくくする配慮として、足りないスペースで2本留めを実現させていまして、さらにそこでは修理の際のフレームの負担も同時に減らす配慮がなされております。それが先ほどの鼻側のピンをそのまま再利用しているということです。それによってピンを打ち込む回数を減らしており、最小タッチ回数で直っています。
仕上がりを観察しての、工場での修理内容のあくまでの予想ということになりますが、大きく外していないんじゃ無いかなと思います。それにしても、さすがにあの状態からここまで戻るとは私も予想出来ていませんでした。この修復内容には大変感動しました。