早くも、先週の展示会注文分が届きました。
腕が紫檀の削り出しです。ローズウッドです。滑らかで、ただただ美しいです。フロントはSPMです。蝶番は一個智のタイプです。相変わらず、面の合わせが綺麗です。木のフレームだと一般的なバネは搭載しておらず、そのおかげで蝶番の作りがミニマルです。正面から見たゴツさがありません。結果として威圧感の無い、上品なフレームになっています。サイズは46□22です。この手のフレームにしては、レンズも小さめなのが良いです。
オーバルのレンズシェイプにローズウッドのテンプルということで、組み合わせとしてはカルティエのバガテルではなくて、オーバルのあれです、あれ。あれは50□21のサイズで、今回の紫檀のフレームよりも2サイズ大きいです。あれの名前が思い出せない…。品名違えど、ヴィンテージカルティエのウッドシリーズに関しては、テンプルは一緒です。例えばバガテルで調べてみると面白いです。それらが存在した時代も良く、まさにゴージャスの極みです。それしか表現のしようがなく、それがまた最高で傑作です。
木のフレームを“やる・やらない”と、しばらく悩んでおりました。お客さんによっては、やらないと申し上げた方もいらっしゃるでしょうし、やるかもくらいに申し上げた方もいらっしゃると思います。結果、良いものが目の前に差し出されましたので、やることにしました。
ちなみに、なぜ逡巡をしていたかといいますと、
①フィッティングの問題
②レンズ枠入れの構造
この二つを気にかけていたからです。つまり、この二つが上手く解決されていることから、取り扱いをはじめた次第です。
①に関して。木でもバッファローホーンでも、装用感(フィッティングとは異なります)の向上の為、蝶番にバネを積むのが一般的です。カルティエのバガテル等々もそうでした。先日枠入れした、リガースなんかもそうです。実際には、あれがフィッティングを損なわせているケースもあります。
どの様なケースに於いてそれが起こるか。それは、こめかみが張っている場合です。フロントの全幅(メガネ正面からみて端から端まで)は、レンズ幅50ミリくらいのもので約140ミリです。日本人男性の側頭幅の平均は160ミリです。頭部形状が卵型で、顔面から見たときに緩やかに耳までアールがついていれば問題ありません。しかし、こめかみが張っている頭部の場合はテンプルが当たります。テンプルの前部から真ん中あたりで顔に当たり、干渉します。この干渉は、バネがあっても解決出来ません。窮屈さを緩和する程度です。むしろ可変で蝶番が外に開いたときに、テンプルの先が耳の後ろから離れると摩擦が失われますから、メガネが下がりやすくなります。
フレームデザインを重視し、テンプルが真っ直ぐ棒状であり、その先が先細りですと、こめかみで当たってバネが開き、テンプルエンドが耳の裏から逃げやすいです。そして木では、フィッティング向上の為の何かを施しようが無いです。
例えば鼈甲であれば、熱で曲げが出来ますから、テンプルエンドの沿わせ角を増やすことで耳の裏に当てて解決します。バッファローホーンも、実は熱を加えると微かながら曲げることが可能であり、同様に対処します。木の場合は全く曲がりません。テンプル製作時の削り出し方が大変重要になってきます。
今回のフレームに関しては、テンプルエンドが蝶番から1センチ以上内側に入り込んでいます。耳の裏にテンプルエンドが一番最初に当たり、こめかみ部分に干渉しづらくなっています。摩擦も強く生じていることを実感できます。また、アールをつけるために真ん中にかけて3ミリほど細く絞ってあり、干渉時の不快さに対して、さらなる配慮が伺えます。
実際、側頭幅160ミリ、ややこめかみが張り気味の私がかけても、テンプルは耳のうら以外、当たっていませんでした。デザイン・カッコよさ等々を比較すると、もちろんブランドの品に軍配が上がりますが、メガネとしての本質的な美しさに於いては、こちらに分があるんじゃないかなと思います。私ごときがそんなこと言って恐れ多いですけどね。
②に関しては、木の全枠も存在しています。ただし、ブリッジ真ん中に磁石を埋め込んであったり、木のフロントにナイロール枠を取り付けているタイプが多く、レンズをしっかりと保持し、尚且つ出来ればガラスのレンズを搭載したい、となりますと難しいです。そこが気掛かりでした。
今回の様にフロントが金属であれば、レンズ枠入れに関しては悩む必要はありません。素材選択にも影響を及ぼしません。フロントをセル枠の様な雰囲気に変えたい場合は、セル巻き加工をする手も残っています。とにかく、ガラスが枠入れ出来ることが私にとっては大きいですね。
つい長くなりましたが、要は、木なんですけど、ある程度ちゃんとしているメガネがありましたよ、ということです。装飾が一切無く、素朴過ぎるかもしれませんね。そこを上品で美しいと捉えて貰えるのか、物足りないとなってしまうのか、それだけです。