すごいのが世にこっそり出ていましたね。
月例の眼科さん出張のときのフレームとしてですが、思わず取り寄せてしまいました。これからどんどんメガネは、年齢や性差を飛び超えてくるでしょうし、現代のヴィンテージメガネの観点からになりますけど、どんどんみんながカッコ良くなってきますね。
TR90という素材です。いまのメガネ店で主流のビヨンビヨンな素材です。踏んでも壊れないとかいうあれなんですけど、蝶番とかブリッジとか、硬く作らないといけない箇所は流石に踏むと折れますし、壊れます。ほかの特徴をあげると、かなり軽いです。その素材で作られた、アーネルなのかレムトッシュなのかジャズなのか、まさかのそれです。
これは5年位前の、別のインジェクションフレームです。この時代は、セルロイドの黒とかデミブラウンに似せないといけない、という使命感があったのか、デミの模様も塗装だったりしました。さすがにこれは…と思って月日が流れていき、気づくと2023年は凄いことになってました。
まず色なんですけど、アメリカンヴィンテージに近いですよね。特にUSSのくすんだ感じにそっくりです。めっちゃカッコいいです。しかも、クリアカラーが流行ったお陰で、素材に対して無理をせず、TR 90の透明感が生きて綺麗です。
あとサイズです。かなり幅広い年齢層を狙ったフレームだと思いますが、なのに46□24です。レンズサイズは好みが分かれますが、ブリッジ幅24ミリが熱いです。巷のフレームを眺めても、少ないと思います。ちなみに似たような形でイジピジは46□21ですね。
アメリカンヴィンテージのセルフレームのカッコ良さは、ブリッジの抜けにあったのだと思います。物理的に顔に鼻に合わせるとかでブリッジを最終的にどれに決定しようか?という問題が立ちこめますが、例えばかつてゴールデンサイズと呼ばれたFPD66で42□24と44□22と46□20があれば、まず物だけみれば42□24が一番カッコいいんじゃないかなと個人的に思っています。ブリッジは、広ければ広いほどアメリカンでカッコいいと。とりあえず、ブリッジ24ミリは現行品では熱いです。
ブリッジを広くした分、鼻の部分の寄せがあらかじめ最大です。パッドの真ん中から真ん中までの距離がおよそ18ミリでして、日本人の男の人の平均が18ミリくらいと資格をとるときに習うんですけど(女性で16ミリ)、ほぼその値です。なのでしっかり顔に掛かるようになっていまして、ブリッジ幅の表記24ミリでこんなにもしっかり顔に乗るものかと感動します。
TR 90は、セルロイドやアセテートと違い温めて曲げることがほとんど出来ないです。そのためテンプルエンドがあんな感じにはなります。テンプルエンドもそのままTR 90で作って、耳にかかる部分にだけ金属芯を入れたフレームも存在しますが、やはりフィッティングの手応えは薄くて、TR90でズリ落ちないようなフィッティングを実現させるとなりますと、こういう別素材で切り替える構造になると思います。そこは残念ながら。
色違いの生成りもいい感じでした。
先ほどアメリカンヴィンテージのセルフレームの良さは、ブリッジの広さだと書きました。ゆったり抜けている感じと。それも含めて、ざっくり一言でアメリカンヴィンテージの良さとは何なんだ?と、冷静になって捉え直しますと、ラフさじゃないかなと思うんです。現代の工業製品には無いと言いますか若干の許されないレベルのラフさがあります。それを取り入れることでファッションに軽さを一気に与えてくれるからこそ時代に迎合されて流行ったのかなと思っています。でも生地は光沢が強くて綺麗でドレス感もあって、結果ラフ過ぎない最高のバランスだったりしますよね。
このフレームのように、TR90素材となるとインジェクションの製法をとります。蝶番とかテンプルエンドとか、絶対に似せることの出来ないディテールも生まれるんですけど、フロントやテンプルの全体のラフさは、現代のほかのプロダクトに無いくらいヴィンテージに似ていました。そこを目指したものでは無いんでしょうけどね。向こうからしたらヴィンテージヴィンテージうるせなぁみたいな。どうあれ似ていてカッコいいです。
品番等の印刷は、バフで一瞬で消えます。掛けた時に製造番号等々が見えると嫌な場合、取り除くことが可能でした。掛けた時に表側に透け無いです。この辺で主張が一切無いのもヴィンテージに近いですよね。
顔に乗った感じも、物だけ見たときのラフさも、たまたまなんでしょうけど相当ヴィンテージの再現度が高いなと驚いています。セルロイドやアセテートによる復刻や再現フレームの方が、取れる構造やディテールの追求のおかげで、もちろん物としての近さはありますが。でもちょっとカッチリ感が入っていると思いませんか?そこで素材を変えて製造方法を変えて、インジェクションでアプローチすると、元のヴィンテージフレームに含まれていたラフでゆったりな雰囲気を、ふにゃっと感をかなり高いレベルで似せることが出来ているのではないかと感じました。となりますと、オプチル素材でアーネルとか復刻したらめっちゃ良い感じに再現出来そうですね。
店頭はあくまでヴィンテージと銀無垢のメガネの販売でして、ブルバキの本筋では無い余談とはなりましたが、再現度の高さにかなり感動したため紹介してみました。インジェクション系のフレームで、アメリカンヴィンテージに近い、雰囲気イケメンが世にこっそり出始めていました。
そもそもラフで、そこそこ気軽だったものが、しょうがないことではあるんですけど数が減ったりあれこれで価格が高騰して気軽さが失われていく中で、インジェクションのこういう再現フレームを手にしてみるというのも避けられなくなってきそうですよね。デイリーはコレで、みたいな。それに、もともとはヴィンテージ側にも黎明期に存在していた気軽に楽しめるという大事な要素がこれにはあって、なんだかとても良かったんですよね。